ここが、サンヨウシティ。
そこはカノコより、カラクサより街として充実しているように見えた。トレーナーのための学習塾、レストランに素敵なカフェそして、ジム。

なんにしろ、今日はここで休もう。朝から歩き詰めだった私の足は、もう限界だった。ポケモンセンターに宿泊するのは初めてだ。トレーナー登録は済ませてあるから、図鑑を見せれば宿泊ができる。(宿泊費は、すごく安いし、自宅に請求してもらうこともできる)

カラクサからの道程で、いくつか野生のポケモンたちと戦った。おかげで、ジャンもかなり経験を積めたようだ。たいあたりの他に技も覚えた。カラクサで購入した傷薬も役に立った。

明日は、少しポケモンを捕まえに戻ってみようか。街にたどり着くのに必死で、他のトレーナーとも戦わなかったから。


そんな風に明日の予定を立てて、私は眠りについた。初めての、1人の夜だった。たくさん歩いて疲れ果てていたから、目が冴えることもなかった。
無意識に、私は、自分を疲れさせようとしたのだろうか。初めて、母の庇護から抜け出すことに、不安が無かったわけではない。他人の怖さも、よく知っていた。
自嘲的な考えは、まどろみの中に落ちていく。



私は1人だったのではなく、既に幾戦を共にしたジャンと一緒にいられたから、簡単に眠りに落ちれたのだと気付いたのは、翌朝、ジャンが私を起こした後だった。












「バオップ、ひのこ!」
「ジャン、たいあたり!!!」

サンヨウシティ、カフェに併設されたジム内で、トウコはジムリーダーのポッドと対戦していた。トウコの手持ちは、草タイプのツタージャ1匹。タイプなんて度外視、戦術なんて呼ぶのもおこがましい、ただの力押しの戦術だ。
そして、私は初めてのジム戦に、勝利した。


「よくやったな、トウコ。よく育ってるぜ、お前のツタージャ」

ジムリーダーは、相手のバッジ所持数によって難易度を変える。トウコにとっては最初のバッジだったため、難易度は最も低い。ジムリーダーであるポッドの実力は、こんなものではないだろう。それを理解していても、初めてジムリーダーに勝ったという事実が、トウコの顔をほころばせていた。しかし、対するポッドの顔はしかめられた。

「けどな、誉められた戦法じゃないぞ。ポリシーなのか何なのか知らないが、ツタージャだけじゃなくて、他に手持ちを用意しておくべきだったな」
ポッドの指摘はもっともだ。私は弱点を突かれるとわかっていて、馬鹿正直に向かっていった。

「苦手な相手に向かってく必要はない、別の奴に頼った方が、傷も少なかったと思う」

そう。
そうなのだ。



この4日間、ジムに挑んでは炎に焼かれ、さんざん煮え湯を飲まされた。(紅茶のプロ相手にこの比喩はどうだろう)
私は挑んでは、負け、また訓練を積んで、ようやく勝ちを手にした。新しいポケモンを捕まえることもできたはずだが、意地になって、しなかった。チェレンなら、間違いなく別のタイプのポケモンを用意しただろう。ベルなら苦手なジムは後回しにするかもしれない。たぶん私は、苦手な相手にだって打ち克つことができるのだ・ということを証明したかったのだと思う。

…昔の私も、そうだったのだろうか。嫌な相手に立ち向かって、虐められていたのだろうか。それとも、戦うことを諦め、挑戦しないでおく子だったのだろうか。


「お小言はこのへんにして、こほん、トライバッジを授与する」

挑戦と引き換えに得たトライバッジは、思ったよりも軽かった。




私のもとに戻ってきたジャンは、誇らしそうな笑顔で、私を見上げる。ぼろぼろの身体で。
「…っ!ごめんね、ごめんねジャン!」
すがり付くように強く抱き締めると、彼は葉っぱのような尾で、私の頭を撫でてくれた。私を信じて戦った彼は、満足そうに私を抱き締め返した。







4.自己満足の挑戦




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