母に新しく買ってもらった帽子は、モンスターボールのマークがついていて、ひとめで私がトレーナーだとわかる。そして逆に、ひとめでは私の表情をわからなくさせる。

私が誰かはわかったとしても、私の心がわかるわけではない。ということ。








1番道路を抜け、カラクサタウンに着く。腕の中のジャンは、草むらを過ぎてようやく緊張が解けたらしい。ぴん、と張っていた尾が、とさりと私の肩に落ちた。

雰囲気はのどかだけれど、ワカバより建物が大きく、高低差の大きい町だった。そんな町のポケモンセンターの前には、小さいけれども人だかりができていた。何か、イベントでもあるのだろうか、好奇心から背伸びをしてみるが、広場の中心を伺うことはできなかった。しかし、四重の人の群れの外にも十分な音量は漏れている。

―ポケモンは、完全な―


―トレーナーは、解放する―


どうやら反トレーナー団体が、講演をしているらしい。初めて見たトウコには、彼らはもの珍しく写った。熱心に耳を傾けていると、端正な顔立ちの髪の長い青年が、こちらを見ていた。

いぶかしい。

じっと、疑問符の浮かびそうな顔でこちらを見ている。ジャンも怪しんでいるのか、小さく鳴き声を上げている。あからさまではないけれど、不審者だ。裏のポケモンセンターに行こうか、膝を回した瞬間、彼は声を掛けてきた。成人ではなさそうだが、こども、と呼ぶことはできない年齢の青年だった。



「キミのツタージャ、とてもお喋りだね」

この男は何を言っているのだろう?キャップの下には笑顔を湛えているが、その瞳に光はない。

「…鳴き声がうるさかったのなら、謝ります」

「泣き声?君のツタージャ、いや、ジャン、だったか。彼は泣いてなどいないよ、僕と話をしていたんだ。キミは新米のトレーナーで、トウコ、って言うんだね。もっと話をしたいな」

話してみると、更にこの男の異様さは際立った。会話の噛み合わなさ、早口で自分の意思だけを捲し立てる、神経質そうな話しぶりだった。

「話って、何を…?」

「こういうことだよ」

男はボールを取りだし、紫色のポケモン-チョロネコ-を繰り出した。バトルが、いやポケモンが心底好きなのだろうか、先程よりも口元は緩んでいる。
一方トウコも、ただ静観しているほど暢気ではない。相手の予備動作を見るや一歩後退し、ツタージャから手を離した。





2.邂逅




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