「あっつぅー…」 強い日差しの照りつけるサザナミタウン。観光に来ていたトウコとNは、しかしその暑さに閉口していた。 「あんたその髪モサモサしてて暑苦しいよ…」 「君が言うかい。トウコこそもみあげがモコモコしてるから見てて暑いよ」 Nとトウコはせっかくデートに来たにもかかわらず、降り注ぐ日差しが二人を遠ざけている。 N自身、平常時でさえ緊張で手汗をかかないかと心配してしまうのに、この気温で手を繋ごうものなら間違いなく汗だくだろう。 「ああもう、ベスト脱いじゃお!」 大した放熱にはならないだろうが、トウコはその黒いベストを脱ぎ、鞄に押し込んだ。黒色が日光で熱を持っているのがよくわかった。 「君は十分涼しい格好をして…」 ちらりとトウコを盗み見ると、彼女もまた汗だくだ。白いタンクトップはじわりと水を含んで、 透けていた。 「トウコさーん!?」 「何よ、ただでさえ暑いのに、大声出さないでよ」 「いや、その、あの、君、」 「なーに!」 きゅっとした腰に手を当てて、彼女は胸を張る。あぁ、そんなことしたら余計に… 「…下着、透けてるよ」 「えっ!あっ」 僕の指摘で跳び跳ねたトウコは肩を縮こまらせ、手で胸を覆った。 「君は、真夏もそんな透けやすい格好で歩いていたのかい?」 「今日は、キャミソール着るの忘れちゃって…」 トウコは腕を組むようにして胸を隠すが、その仕草がまたいやらしい。そう感じてしまう僕が悪いのだろうが、少女の色香というか、健康的な美しさというか、そんなものに魅せられてしまったのだろう。 「まったく、上着を着ないからそういうことになるんだよ」 「だって暑いし…」 「おいで!」 顔も見ずにそう言って僕はトウコの手を引いた。いつもより汗ばんでいるだろうが、それは僕だけじゃないからもう構わない。 口笛でレシラムを呼ぶと、空を舞っていた彼は砂浜に降りたった。地鳴りと周囲の人の歓声が聞こえたが、構わずその背中に飛び乗りった。 海岸の砂が、僕らを追いかけるかのように舞い上がるものの、一粒残らず風に負けて去っていった。 「ちょ、ちょおっ、N!何してんのよ!」 レシラムの背中の上で、Nに抱え上げられているトウコが暴れた。 もはや海岸の人々が砂粒にしか見えない高度。レシラムを御しつつ彼女を押さえなければならないため、少々ヒヤリとした。 そうは言っても、僕も男だ。それも年上の。焦りなんて全く気取られない声色で、ごく普通に返答してみせる。 「あんな格好で出歩かれてしまっては、僕が困るんだよ」 「どうして…?」 きょとん、とした表情で僕を見つめるトウコ。首を傾げた仕草がまた可愛らしい。 「トウコのあんな格好、他の男に見せられるわけないだろう、僕が妬いてしまうよ。」 それくらいわからないのかい、とまくし立てると、トウコはほんのり赤い顔で笑った。 「ばか…」 「それに、空の上なら暑くないからね。手も繋げるし、思いっきり抱きしめることだってできる」 「っ!そうかもね!」 彼女はぷい、と明後日を向く。僕の方を向いたポニーテールが風にたなびいて、少しばかりくすぐったい。首を思いっきり反らしてはいるけど、赤くなっている小さい耳が見えた。 |