※クリア後、チェレベル







「あ!あれ見て!今年も綺麗だねぇー」
ベルが指をさした先は、町外れの道路脇だった。

「え、あ、あぁ。花か。」

久しぶりに戻ったカノコタウンでベルと再会し、僕らは思い出話に花を咲かせていた。チャンピオンロードの中と違って、明るく色に溢れた世界はなんとも楽しげだった。
いつの間にか散歩は旅の始まりの場所へ向かい、町の外れにまで来た。
季節の移りは、この道路で顕著に感じることができる。四季折々の花を咲かせる花壇があるからだ。


「うん、今年もうまく咲いたね。私も手入れを手伝った甲斐があるよ」

僕にとって道路というのは、「町と町を繋ぐ」以上の意味はなく、何のポケモンが出てくるかにしか興味はなかった。

ベルの話を聞いて、そんな楽しみ方もあるのかと内心驚いたものだ。



「ベルはぬけてるようで、花の名前とかは覚えてるよね」
「うん!好きなものは覚えるの早いよ!」
「勉強にもその暗記力が発揮されればいいんだけどな」
「あーまたイジワル言って。よく言うじゃない、『好きこそものの…の…』」
「『好きこそものの上手なれ』だろ」

「そうそれ!」


勉強にはからきし暗記力を生かせない彼女だが、本人が言うとおり、花だとか、服のブランドだとか、ポケモンの特徴だとかは面白いほど覚えている。
そんな彼女の目下の目標はポケモン博士なんだとか。
自身の特徴をよくわかっていて、いい選択だと思う。


僕はといえば、自分のことをわかっているつもりでいたけれど、その実、目標の中身の無さを痛感したとこれだった。


「チェレンはさぁ、むつかしく考えすぎなんじゃないかなぁ?」

「は?」

「よってるよ、眉間にしわ。また何か考えてるんでしょ」

「あ、うん。…ベルだって目標が決まってるのに、僕には何もないなって」



何も言わずベルは草原に腰を下ろし、僕にも隣に座るよう促した。




「チェレン、ここの花畑はカノコの人が手入れしてたって知らないでしょう」

急に話がそれてチェレンは戸惑いを見せたが、ベルの空気の読まなさはいつも通りだと思い直して頷いた。


「チェレンもね、世界を見て回ったからって、世界の『全部』を知ったことにはならないんだよ」


もちろんだ。しかし、当たり前のことだって、面と向かって指摘されれば意識も変わる。トウコがいると隠れてしまう、ベルの芯の強さが垣間見える言葉だった。

僕のプライドは、それを素直に認めようとはしないけれど。


「君も、知った口をきく」
「チェレンって、目上の人以外の忠告は聞かないよね。それも、悪いとこだよぉ」

「言うなあ…」

「チェレンのことならわかるんだよ〜」

「長い付き合いだからな」

それもあるけど、と逆説して彼女は続けた。



「好きなもののことはわかるんだよ。好きこそものの上手なれ、って言うんでしょ?」

そう言って、ベルはウインクした。彼女はポケモンが好き。花が好き。そして…

「あはは、チェレン顔が赤いよぉ」










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