※黒N主♀









「ごめんって、」

1ヶ月と少し前、狙ってヒウンシティに顔を出した僕は、目論見通りトウコと会うことができた。その日は2月14日。何を渡し渡される日かは自明だ。
そして今日は、その1ヶ月と約二週間後である。


「用意してなかったわけじゃないんだよ。ただ最近顔を合わせる機会がなかったからさ、」

「ふうん、そうなの。」

Nの必死の弁解もむなしく、トウコの機嫌は急降下だった。

実際Nはホワイトデーのお菓子を用意していたものの、生菓子に二週間という期間は当然耐えられるべくもなかった。偶然すれ違ってしまったのか、全く顔を合わせる機会がなかったためだ。大方、彼女は彼女で殿堂入りにでも勤しんでいたんだろう。はたまたミロカロスを釣りに行っていたのかもしれない。


「今度、何かおごるからさ、今甘いものの手持ちがないんだよ。」
「ふーん。はいはーい、お願いしますね。じゃあラデュレのアフタヌーンティーセットでもおごってもらおうかなぁー。すんごい高いやつ。」


足早に歩く彼女を追っていたら、遊園地のその奥、ライモンシティの海岸まできてしまった。
平日の昼間ということで、さして人も多くない。

「…トウコっ」

後ろから手を引けば、こちらを向いたトウコは、僕の予想外な顔をしていた。





「うーそーだーよ〜」

にやにやと上目遣いで見つめてくるトウコは、俺の顔を見て楽しんでいるようだった。
「Nがお返し無いって言うから、困らせてみただーけ」

「……」

「あはは、びっくりした?」




成る程、そういうことか。ならば俺だって、容赦はしない。

「へぇ、困らせたかったの」

トウヤはすばやくトウコに近づくと、不意打ちに唇を合わせた。何か声を発そうとした彼女の唇を、舌で割り入る。暖かいぬるっとする舌の感覚に驚いたトウコは、次にその苦味に顔をしかめた。

油っけのある液体、いや固体?

十分に口内をかき回された後、トウコはようやくその正体に気付いた。


「チョコ、レート?」

恥ずかしげに口元を押さえながらNに問う。ニヤニヤと笑っているのは今度はNの方だった。

「そうだよ。カカオ分高いからね、苦いでしょ。」

「うん、にっがー…うう…口直ししたい…甘いのないの?」
「言ったろ、甘いのは今持ってない、ってね。ビターチョコは苦手かな、トウコちゃん?」

トウコは無言で「いー」の顔をした。俺は、仕方なく水筒を取り出そうとしている彼女の手を押さえて、もう一度至近距離まで顔を寄せてみた。



「じゃあ、俺がその苦いのとってやるよ」

「どうやって?」

「おこちゃまのトウコちゃんにはわからないかな、」

こうやるんだよ。




Nの舌がトウコの口内を這いずり回って、内側の全面を舐めまわしていく。唇の下も、舌の裏も、歯茎の裏も、あますとこなく蹂躙される。
ふたりの舌の上で唾液は行ったり来たり混じりあって、たまに離れた唇の間からは、うす茶色い唾液が流れ落ちた。


トウコの頭がとろけた頃には、もう苦味なんて残っていなかった。








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