「N!あれ見て見て!綺麗〜」


カノコタウンを出てすぐの1番道路、両側には季節の花々が咲き乱れていた。近くの住人が手入れをしているのか、花畑は統一感があって小綺麗だ。

「あれはパンジーでしょ、ビオラでしょ、金魚草にマリーゴールド!」
「意外だな、トウコが花に詳しいなんて」

「地元民だからね〜、ベルに昔教えてもらったんだけどさ。てかN、その言い方は酷くない!?」

きゃあきゃあ言うトウコには、とりあえず謝っておくことにした。
「思った以上に女の子らしいんだなと思っただけだよ。僕とバトルしたときの勇ましい君のイメージとは違っていて、ね」

「そうね…私もベルが居なかったら、花に興味なんて無かったと思うし」

友達の影響を受けたというトウコが、こっそり羨ましく思えたのは内緒だ。


「僕は花の名前になんて興味なかったし、覚えようとしたこともないよ」

「でもさ、花の名前なんて知らなくても、キレーだなーって思うことはできるじゃない?」

「そうだね。ここは、とても綺麗だ」
花畑ではしゃぐ君の方が綺麗だ、なんて歯の浮く台詞を言えるはずもなく、僕はただ彼女が言ったことを反復し、見とれることしかできない。


「それにさ、花じゃなくてもいいんだ。綺麗なものを、一緒に見て綺麗だって言いたい。おんなじ物を見て、おなじことを感じたいだけなの」
トウコは花畑を背に、満面の笑みを浮かべた。




僕は父親に監禁され、彼女は母親に養育された。全く違う環境で育った僕とトウコは、異なる考えを持って当たり前だ。そんな僕らが、同じ思想を共有するのは難しい。

しかし、同じ感情を共有することはできる。


感情を共有すること、経験を共有すること、それこそが親子だったり友達であることなのかもしれない。






「あぁ、とても綺麗で、気持ちいいね」

「うん、とっても。」



さわやかな春の風が、ふたりを包んでいた。






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