※チェレ→ベル







初めはトウコに惹かれた。活発で、屈託なく笑い、いつも僕らの中心にいた彼女に。それは、憧れに近い、初恋だった。


初めはベルがうっとおしかった。考えなしで、鈍くて、鈍い彼女が。




「あっ、チェレン久しぶり〜」
「ベルか、こんなところで会うとはね」

変てこな芸術家のような帽子をかぶった女の子が、こちらに手を振っている。白く膨らんだマ―メイドスカートは、まさしくベルのトレードマークだ。

「なーんか、眉がびっ、てなってて怖いよ?笑って笑って!」


その時の僕は、ちょうどトウコに連敗した折、虫の居どころが悪かった。トウコに惹かれていたこともあり、彼女に勝てない自分のふがいなさを身に染みて感じていた。本当に眉もつり上がらんばかりだったのだろう。

「うるさいな。ベルはいつもへらへら笑って、ノーてんきだな」

「あっ、ひっどーい!私だって色々考えてるんだよ!将来のことや、私たち三人のこと。チェレンこそ、強さ強さ、って目の前のことしか見えてないじゃない」

的を射られたような気分になり、突発的に頭に血が上った。


「何だって?!強くなるのをハナから諦めてる君にはわからないんだろうね!僕はまだまだ強くなる!強くなって、」

「チャンピオンに挑戦して?」

「そう、そして勝って、」

強くなる。強くなる。強くなる。強さを求めて旅をしてきて、強くなるのが目的で、

「勝って、どうするの?」
「どう、って」


僕はそんなこと考えていなかった。トウコに負けたのが悔しくて、強いトレーナーに勝つのが楽しくて、これまでやってきた。なら、その先は?




「………」
何も答えられない。冷静に、でもがむしゃらに、強くなることを求めた僕には、目的なんて初めからなかったのだ。
心の中にない答えなんて、探しようがない。


おし黙ってしまった僕をよそに、ベルは普通に話を続けた。

「強くなって何をするか、それを探すために」


旅に出たんでしょう?




ベルは、微笑んだまま、当たり前のようにそう言った。気取るでもなく、真面目な顔をするでもなく、いつもの能天気な雰囲気のままそう言ったのだった。






「そう…、そう、だな」

「私はまだ、やりたいことは探し中だけどねー。チェレンもでしょ?」

「…ああ、うん、そうみたいだ」




何も考えていないような顔をして、遅刻ばかり失敗ばかりの女の子だと思っていた。

けれど本当は、僕よりも、もしかするとトウコよりも、彼女は考えているのかもしれない。

旅の目的を、
力の使い方を、
自分の生き方を。




「ベル、久しぶりにご飯でも食べに行こうか。おごるよ」

「チェレンが言ってくれるなんて珍しーねー!嬉しいな、行こ行こ、どこにしよう?」


大切なことを気付かせてくれたお礼にしては安いけど、おごってあげることにする。
この借りは、ちょっとずつ返させてもらうよ、ベル。



「チェレン、さっきよりずっといい顔になってるね。眉もご機嫌みたい」

ふふ、と心底楽しそうに彼女は笑った。いつもの能天気な顔で。





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