※少々目に痛い配色ですみません








「チョコレート、いかがですかぁー」

イッシュ一の大都会ヒウンシティは浮かれたムードに包まれていた。赤い包装とハートが飛び交うバレンタインデーだ。
お祭り騒ぎの街では、つい自分もつられてしまう。トウコは街の雰囲気に押されて、2、3チョコレートを手に取っていた。

カノコタウンでは、同世代が自分とベルとチェレンだけだったから、お母さんに手伝ってもらってチョコレートのお菓子を作って、二人に渡していたっけ。ベルとは友チョコを交換で、チェレンにいは義理よ!といいながらも3倍返しを要求していた。
ベルはお菓子作りが上手くて、いつも私はご相伴にあずかっていたものだ。去年は甘ーい、とろけるフォンダンショコラだったっけ。あれまた食べたいなぁ。
あの二人とも、今年は会うことはないのだろう。旅を始めてから、各々が自分のペースで移動している中、すれ違うことばかりだ。都合よく会うこともないだろう。
今年はこのイベントにも関わることはないのだろうか。


「せっかく都会に来てるんだし、『自分チョコ』で何か買っちゃおうかな〜」
ショーウインドーを眺めていると、色とりどりなチョコレートが並んでいる。箱が凝っているものや、

「これ…!かっわいいー!」
ポケモンの形を模したチョコレートもあった。チョロネコなんか、毛並みまで再現されていて芸術作品のようだ。一目ぼれの衝動買いが決まった。
お店の人は丁寧に包装してくれて、ピンク色の紙袋に包まれたチョコレートが手渡された。(それなりに値は張ったけど)
これは、食べるのがもったいなくなってしまいそうだ。


鞄には入らないので、紙袋は手に提げたままストリートを下る。やっと自分も街の雰囲気にのれた気がして、うきうきと歩調も軽い。鼻歌なんか歌ってしまう。


「トウコ、往来で歌うのはよした方がいいと思うけど」
後ろから早歩きで足音が近づいて来たかと思うと声をかけられ、それはNだった。

「きゃっ、N!?驚かさないでよー」
「ボクには驚かすつもりはなかったけどね。ただ声をかけただけだよ」

相変わらず読めない無表情で、Nは答えた。無表情とはいえ、顔だちは整っているので女性からも人気はあるのだろうな、と思った。

「今日はバレンタインだから、Nはけっこうもらってるんじゃないの?」
「え?何のこと?」
「とぼけないでよ。チョコレート。女の子が渡してくるでしょ?それとも甘いものって好きじゃないの?」

少しだけ、ほんの少し、Nにチョコを渡す女の子に嫉妬して、つい饒舌になってしまった。ああ、とNは頷いて私の方を向いた。

「好きな人以外からもらったときは、断るべきかと思って」



好きな人、いるのか。


「へー、意外と硬派なんだね、Nって」
「さあね。トウコは、誰かにあげるの?、それ」

指をさした先には、私のピンクの紙袋があった。PKチョコレートと大きくロゴの入った可愛いデザインは、いかにもバレンタインデーのチョコレートだ。


「…まあ、ね。結構迷ったんだけど、このチョコ可愛いから買っちゃった」

自分用に買ったけれど。Nが他の人からチョコをもらう機会があったことにむかついて、私は意地を張った。

「そうなんだ。チェレン君とか、トウヤ君に、かな」

「違うわ。別の人よ」

どうしてそんなことを訊いてくるのだろう。好奇心がすぎる。

「僕の知らない人、かな」

「さあね」


「…そう」
そう答えた彼の表情が、いかにも辛そうで悲しそうで、私は目を疑ってしまった。どうして?無表情な彼が?
その顔を見たくなくて、私は口を開いてしまった。






「Nも知ってる人にだよ」

「え?」



「はい、あげる」

手に持っていた紙袋を突き出す。さっき買ったばかりだけど、別に構わないだろう。

「本当に?」

「本当に。いいわよ、いらないんならトウヤに渡すわ」

「いるよ!…ありがとう」

はにかんだ顔に、私の方が心臓が飛び出しそうになってしまった。美形なんだから、破壊力はばつぐん。私のタイプ相性もばつぐん。

「…喜んでもらえるなら、よかったわ」




軽くなった右手は少しだけ汗ばんだ。












本命からしか貰わないって本当?
















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