※ヤンデレ












ダークトリニティの1人に促されて入ったのは、カラフルな子供部屋だった。

「バスケットゴールに、おもちゃの電車…」

Nの部屋、と聞いていたが、大分想像と違う。ことあるごとに知識や数式を口走るあの人に、似つかわしいとは到底思えなかった。

私の足元、途切れた線路上で空しく空回る電車がひどく痛々しくて、私はそれを止めた。




「なにをしてるの」


急にかけられた声に、トウコは肩を震わす。緊張からか、大袈裟に身震いしてしまった彼女は、恐る恐る後ろを振り向いた。

「あんまり遅いから、迎えに来てしまったよ。英雄…になる資格を持つお姫さま?」


萌黄の髪の青年は、またあの光のない瞳で笑った。

「年頃の女の子が、年上の男の部屋に入るなんて感心しないよ。危ないだろう?」
揶揄するように口角をつりあげてからかわれ、トウコの顔には朱が差した。


「あなたの仲間に、入るよう言われたのよ」

「ふぅん、そういうこと」

Nの表情はその長い前髪のせいで窺うことができない。トウコが部屋に入っているのを知って、苛立っているのか、喜んでいるのか、何も思っていないのか。

Nの真意を図りかねたトウコは、彼の方へと一歩歩み寄る。

「N、」

突然、Nは無言のままトウコの腕を掴む。射程範囲に入った獲物を猛禽が捕るかのごとく、トウコは驚く暇もないまま壁に押し付けられた。事態を把握するより先に、背中の痛みを認識する。

「――っ、何よ!」

鞄の中のモンスターボールに手を伸ばそうとするが、それも叶わず拘束される。

「放して!!」

「お姫さまが、そんな風に声を荒げちゃいけないよ。。王の妃となるべき女性は、もっと淑やかでいなければ」
「あなた、何を言ってるのよ!」


トウコが声を張り上げたところで、Nが耳を貸すことはない。思えば最初の最初から、彼がトウコの言葉を聞いていたかは怪しい。用意されたイエス/ノーだけをなぞらされていたのではないか。



「私を捕まえて、どうするの」

「君が僕の邪魔をするからじゃないか。英雄の証たるドラゴンにも出会えぬまま此所に来たのは滑稽だったけれどね。今の君は斧をもたない蟷螂だ」

うるさい口は塞いであげる、と言ってNは無理やりトウコに口付けた。壁とNにはさまれて、腕は頭の横で拘束されて、身動きをとることができない。唇はべろべろとしゃぶられて、声を出そうとしても喘ぎにしかならない。

「ふっ、あ、はぁ」

ポケモンたちがいなければ、自分はただの女の子にすぎないんだと自覚させられる。なんの力もない――


「んんーっ!」

渾身の力を込めて、Nの腿を蹴っ飛ばした。不意討ちだったにもかかわらず、彼はよろめきもせず、トウコから唇を離すだけだった。


「君は獣かい?体は露出するし、暴れるし。色々教え込む必要があるみたいだ。まあいいか、時間なら充分ある。いくらでもね」




今さらになってトウコは、部屋の扉が閉まっていることに気付いた。







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