※クリア後。ぐだくだ。 「じゃあ、新春バーゲンに行ってくるから、留守よろしくね」 なんて言ってお母さんが出かけた一時間ほどたった頃、ドアチャイムが鳴った。 正月だからと自宅に戻っていた私は留守番の仕事を果たすべく、チャイムの音に返事をして玄関に走り下りる。 家には今かよわい女の子1人なのだから、訪問者は確認すべきだろう。大概の不審者は私のパーティーで追い返せるだろうけど、用心は昔からしつけられている。 背伸びして、ドアの小さなレンズから訪問者を確認する。そこには、緑髪の青年が立っていた。 「トウコ、あけましておめでとう!ジャローダ達も元気かい?」 「…あけましておめでとうございます…」 意外とNに一般常識があったことに驚きつつ、年上ということを考慮して敬語で新年の挨拶を交わした。 「上げてくれないのかな?」 「図々しいっ!」 「外はすごく寒かったんだよ」 「…じゃあ上がって。お茶くらい出すわよ」 女の子1人の家に、年上の青年を上げてもいいんだろうか。男といっても、Nだしいいか、と私は根拠のない納得をした。 湯を沸かしている間に、部屋の灯りを切ってこなくては。リビングにNを座らせて、私はパタパタと支度をした。 ついでに、もう少し可愛い部屋着に着替えてこようか。いやいやいや、どうしてそんな必要があるの!頭に浮かんだ考えを払拭して、代わりにいくつかモンスターボールをひっつかんで階段を下りた。 「トウコ、お湯が沸いてるよ」 「はいはいはいっ」 Nがヤカンの前でオロオロしていたのが、なんだか可愛い。この人、やっぱ常識がないところがある。お姉さん気分で紅茶を淹れた。 「はい、どうぞ。アールグレイです」 Nは礼を言うと、カップで手を暖めながらすすりだした。やっぱり、この人仕草が可愛い。見ているだけで、少し笑みがこぼれてしまった。それを隠そうと、私もお茶を口に運ぶ。 「実は今日は、トウコに用があって来たんだ」 「えっ」 うちのポケモンと遊びに来たんじゃなかったのか。 「お年玉」 Nはポチ袋を差し出した。 「お正月には、年上からお年玉をあげるんだよね?開けてみてよ」 お年玉の小さな袋を開けると、入っていたのはお金ではなかった。 ライモンシティ・遊園地一日券 「わぁ!ありがとう!」 中身がお金ではなかったことに彼らしいな、と思った。遊園地への招待であることも含めて。 「久しぶりに、君のポケモンたちとも会っていいかな?」 「もちろん!」 さっき持って下りていたボールから、ジャローダたちを出してやると皆一様に、久しぶりのNと戯れだした。各々が競うように鳴き声をあげている。何か喋りたいことでもあったんだろう。「何て言ってるの?」と訊いても、Nは肝心な内容ははぐらかしてしまう。 「あらあらにぎやかねぇ」 玄関が開いて、外の冷気がすうっと入った。それから、気温に顔を染めたお母さんも。 「お母さん!お帰りなさい!」 「お邪魔してます」 私とN、それからジャローダたちの声が合奏した。私はお母さんの荷物を受け取って、運ぶのを手伝う。Nも私に倣った。 「こんにちは、来てたのねNくん。明けましておめでとう。今年も娘をよろしくね」 「はい、お母さん」 「ちょ、ちょっと!それじゃまるで私たちが付き合ってるみたいな言い方じゃない!?」 「あら、違うのかしら?」 悪びれずにお母さんは言う。 「違うってば!もう!」 「あはは、トウコはお母さんと仲良しだね」 「あんたのことでからかわれたのよ!!」 それからは三人(とポケモンたち)でお茶会をして、Nは帰っていった。ポケモンとも、人間とも、よく話せたようで満足したようだった。 「Nくん、ちょっと変わってるけどいい子じゃない。本当に付き合ったら?あんたも彼氏の一人や二人作ったらいいわよ」 「1人で充分!てかNはそんなんじゃないんだってばぁ!!」 ◆後日。 私はお年玉の遊園地券が二枚入っていたことに気付く。そして裏面を見ると、 『これはトウコの分!』 『こっちは僕の分!』と書いてあった。 お年玉の遊園地券は、どうやらデート権だったらしい。 |