※トウヤ→トウコ→N





「トウヤく〜ん!」

クセっ毛のポニーテールを左右に揺らしながら、ピンクのキャップを被ったあの子が駆けてくる。

「トウコちゃんっ急いで!もうトレイン発車しちゃうよ!!」
俺の声は発車ベルにかき消されただろうけど、意図は通じたはずだ。走ってくるトウコに手を伸ばして、思い切り掴んで、列車に跳び乗った。


「…ふぅー、間に合ったね」
「ほんっとごめん!あたしが遅れたせいで!」
胸の前で手を合わせて、あんまりにも謝るもんだから責める気もなくなるというもんだ。

「間に合ったんだし、いいよ。ほら、バトルの用意しよ?」





カタン、コトン、
軽く列車ひとつを勝ち抜いて、僕らは次の駅を待つ。ライモンの鉄道は地下鉄だから外の景色はなく、窓からはトンネルのライトが明滅するだけだ。そんな面白味のない環境では、否が応でも隣に座る人を意識させられる。

むき出しの肩に気を奪われてうつむけば、惜しげもなく晒された腿が目に入る。照れて視線を反らした。

トウコといられるこの時間がいとおしい。トレーナーとして強くあれれば、彼女はずっと俺と組んでくれるだろうか。

トレーナーとしてだけじゃなく、側にいることはできないのだろうか。



「トウコ、ちゃん、って、恋人とかいる?」
訊いてみたいって、ずっと思っていたんだ。声が上ずらないように細心の注意を払った。

「まさか、いないよ。トウヤくんは?」

希望通りの答えだ。

「ぼくも。…好きな人ならいるけどね」
「そっかあ、あたしも。」
くすぐったい空気が二人の間に漂う。次は何を言おうか、頭がぐるぐる空回りしている。期待に自分の体温が上がるのがわかった。


「もう、ね」

トウコは一段トーンを落として、でも努めて明るく聞こえるように言った。


「会えないかもしれない人なんだ。気持ちは伝えられなかった。伝えてたら、何か違ったのかな」

彼女の独白を聞いて、体温が急にしぼんでいくのがわかった。

「純粋すぎる変な人だったけど、とても、」



「寂しそうな人だった」







規則的にリズムを刻んでいた列車が、ブレーキで制動した。光の洪水が車内に流れ込み、列車は駅のプラットホームに収まった。

「さぁ、もう7戦がんばろっ!今日こそトレインマスターに勝つんだから!」

「上下さんには何度も負かされてるからね」

「あだ名つけたの!?」

。多分、ふたりともテンションを無理矢理上げて、会話が盛り上がっているように振舞った。
憂いを車内に脱ぎ捨てるように、トウコはホームに下りていった。





トウコ、今の僕はきっと、その人より寂しいんだよ。




トウコの後悔を載せた列車は、軽やかにホームを駆け抜けていった。





 





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