※ED後







未だあの子に会うつもりはなかったんだ、本当だよ。





イッシュに戻ってきて、初めに向かったのはライモンシティだった。たまたま空から見下ろしたら、あの美しい円運動の機械を見かけたから、理由はそれだけのはずだった。


目立たないように郊外から徒歩で街に入る。懐かしいイッシュの空気だ。僕にとって、街中で過ごした年月は長くはないのだけれど(本当に残念なことだ)、娯楽のためだけに作られたこの不思議な街は忘れられない場所だった。


街のシンボルである観覧車は、郊外からも見えるので迷うこともない。遊園地の入り口のアーチの下、以前ここであの子を捕まえて引っ張ってったっけ、なんて感慨にふける。僕の思い出に残っている「外の世界」は、もしかしたら全部トウコ絡みに上書きされてるのかもしれない。

(ピカチュウのバルーンを通り過ぎて、このまま真っ直ぐ行けば観覧車に着くはずだ。しかし、あれは二人以上じゃないと乗れないんだっけか。そこらへんで女の子を誘うって手もあるけれど、正直願い下げだった。下から眺めるだけか、それも悪くはない。)



観覧車は人気のアトラクションかと思いきや、意外なことに人の姿は少なかった。そうか、今日は平日でまだ太陽も真上だ、旅をしているとそこら辺の感覚はつかないのだった。もっとも、僕に曜日が関係した時期はないのだけれど。

空いているなら乗っていくのもいいかもしれない、と思った矢先、聞き覚えのある懐かしいかけ声が聴こえてきた。


「いけっ、シャンデラ!」

大きなポニーテールをなびかせて、独特の投げ方でポケモンを出すあの子。相変わらずのショートパンツがまぶしい。
久方ぶりに見かけた、トウコ。


「シャンデラ、オーバーヒート!」


彼女のエース級モンスターを出されてはひとたまりもないだろう。エリートトレーナーも形無しだ。がっくりとうなだれて、ひんしになった手持ちのポケモンを保護していた。
さすが、予想通り彼女の腕はなまってはいないようだ。
しかし、青年(文字通り青い人だ)の次の行動は予想外のものだった。軽く手を広げて笑うと、トウコを観覧車へ導いた!




敵対心、好奇、嫉妬、恋慕、ないまぜになった僕の視線が、突然にトウコの視線とかみ合った。



「   」

彼女の瞳とくちびるを行ったり来たりした僕の視線は、確かにきっと言葉を捉えた。

「え、ぬ」と言った。間違いなくそう言った。僕を呼んだ!


「トウコっ!!!」


気づいた時には僕の足は地を蹴っていて、彼女はこっちを向いていて、今までで一番速く走っていて、彼女は青年の手を振り払っていて、僕のキャップが落ちるのなんて構ってられなくて、彼女の手が伸びてきて、僕は、トウコを、抱きしめた。




「N、N、NNN!どこ行ってたの!いつ帰ってきたの!」
僕の腹を潰そうとしているんじゃないかというくらい、強く彼女はしがみついてきた。身長差のせいで、帽子の鍔が邪魔になり、トウコの表情は見えない。

「世界中だよ。今ここに戻った。」
「そんなこと訊いてないよ…」
「トウコが今訊いたんじゃないか」



「Nが戻ってきて、嬉しい、って言ったのよ」
彼女の抱きしめる手が少し緩んだ代わりに、僕はきつく抱きしめ返してやった。








会えない、会えない?、会えた!





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