優しくて惨いあんたを殺してやらねえ


 「あ…い、やだッ!止め…」

 俺が嫌だと言っても、この男が止める筈がないことぐらい分かっている。
 俺が奪い取った色眼鏡に隠されていた目は、こんなにも優しい。 冷たい無機質のレンズに、何故隠してしまうんだろう。 
 この世界で、俺に最高の女性と絶望を与え、俺から強さとあんたを奪った酷い男。
 ねえ、俺が知らないであんたの掌の上で踊り狂っているのを見て、どうだった? 
 

 「オー、ヴァン…ッ!」


 俺が泣きそうな(多分もう泣いている)顔で名前を呼べば、優しく微笑んだ。
 そして囁くのだ、俺の名前と「愛している」と。

 そんなに優しく暴くな、有り得ねぇ声が出そうになるから。
 そんなに優しく囁くな、強烈な虚無感に襲われるから。
 もっと乱暴に暴けよ、あんたを憎めるから。


 「殺、して やる…ッ」

 「ああ、殺しに来い…俺を、殺せ」


 なんて優しくて酷い男なんだあんたは!!!
 何故、そんなにも俺を硝子細工のように扱うくせして、惨いことをするんだ。
 きっと、俺はあんたを殺せない。 けど、あんたは俺に殺させる。
 

 「やだよぉ…やっぱ、俺にはッ…むり……」

 「いいや、ハセヲは俺を殺す…殺して、くれるな?」


 まるで、俺が聞き分けのない子供であんたは正しいことを言う先生みたいではないか。 今まで、何回もこの諭すとうな言い振りで言いくるめられてきたなあ・だなんて頭の隅で思った。


 「強くなって……俺を殺せ」


 ねえ、あんたは俺に助けて欲しいの?
 まるで、哀願するような呟きじゃないか。今、俺は泣いている。オーヴァンも泣いてる。お互い求め合って助け合って、このThe worldで生きているみたいだ。


 あんたを殺せば、あんたは救われるの?
 あんたを殺せば、あんたは居なくなるんじゃないの?

 俺は嫌だよ、クーンにも言われたけど、失う覚悟なんてしたくない。もう何も失いたくないよ、オーヴァンが居なくなるなんて俺嫌だよ。
 

 「ァ…アアアァアアアアッ!!!」


 俺の体内でオーヴァンが弾ける。 視界がチカチカする。 いっぱいあんたの背に傷を付けてやる。俺はオーヴァンの背を掻き抱く。
 離れてどっかに行かないようにだなんて、我ながら恥ずかしいと思うけど。


 「ハセヲ…愛してる」


 ああ、なんて優しくて酷い俺の男。
 この世界で一番愛してる。

 あんたは俺以外の人に殺されないでね。
 そうすれば、あんたは絶対に俺の前から消えないから。


 End
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