リューコサイト


 手を伸ばす。
 (もう少しで届きそう)(ああ、あと少しで)
 しかし己の指が掴むのは、彼の風。
 気付けば、彼の影に自分が捕われている。

 「君は何度殺せば諦めるんだい?」
 己の身体は異端に縛られている。

 自分は異端を狩るもの。異端に捕われている自分は何物だ。
 かりそめの命と身体と僅かな思念。

 (諦めるってどういうことだ)

 「君の意義を棄てることさ」

 じゃあ無理だ。
 自分はリューコサイト。
 この世界の女神の番犬。

 (どうやって棄てるの)

 逃げ方なんて知らない。
 棄てる理由もない。
 それを言ったら、彼は哀しく笑った。
 影は、それを同情して欲しいのかと嗤った。

 「棄ててやろうか」

 なんて甘い罠。
 しかし、自分にはそれが良いことなのか悪いことなのかが分からない。

 「嘘だよ。人形など、地を這う虫だけで十分だ」

 ああ、影が空虚な肉体を裂く。 
 血肉という名のテクスチャを剥ぎ取られる。
 それでも自分は再構成され世界のために生かされる。
 意思も無く、世界の病原菌を殺すリューコサイト。

 (それが意義なのだろうか)
 (それこそ自分が決めることさ)




 END
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 リューコサイト(白血球)
 顆粒球、リンパ球、単球があり、外部から体内に侵入した異物の排除を役割とする造血幹細胞由来の細胞である。
 BY. WikiMoより

執筆:10-01-13
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