捕食者のゲーム


 「赤子の首を捻るように・・・とは、このことを言うんでござるな」
 「ほぉんと、そうだよな」

 M2Dの向こうには、悲鳴をあげて灰色になる人。大剣を振り上げる少女。傍らで笑う、俺。
 リアルの傍らには、少女である青年。辰己が居る。

 「今日の獲物は格段と間抜けであった」
 
 アスタは嬉々として、灰色になった人を続けて攻撃する。哀れな子羊の悲鳴を最後に、バトルフィールドが解除された。同時に灰色の死体の姿は消え、経験値のメーターが上がる。

 「PKをする拙に対して助けてと言った。自分を殺そうとしている人に助けを言っても無駄なのに」
 「でも、それが初心者狩りの愉しいとこさ」

 俺はプラットホームへ歩き出す。その後をアスタが大剣を収めてついて来る。タウンへ戻れば、画面端に『悠久の古都 マク・アヌ』と表示された。

 「辰己ぃ、次はどいつにする?」

 マク・アヌには、右も左も分からないヒヨコが沢山溢れかえっている。俺はリアルのアスタへ言葉を投げた。
 急に名前を呼ばれても驚きを見せなかった辰己は、意味有り気な視線を向けてから、アスタをとあるPCのところまで歩かせた。

 「おぬし、初心者であろう?拙らでよければこのゲームを教えてあげるでござるよ」

 アスタが話しかけたのは、おっとりしたような雰囲気を出している斬刀士。話しかけても返事がなかなか返ってこないところが、初心者らしさを感じさせる。
 横目で辰己を見れば、口端が吊り上がっている。こいつも、少し前までは初心者であったのに。PKをすることに躊躇いを覚えていたのに。
 笑える。

 「遠慮なんかしなくていーってwww さっさと行こうぜ?」
 「は、はいっ!!!」


*

 「……ッ、何のつもりだ」
 「別に〜?」

 アスタが睨んできた。斬刀士は慣れない手つきで刀を振り回してゴブリンを攻撃している。
 俺は後方に回ってアスタと斬刀士を回復する役になっている。
 リアルでは、後ろから抱き着いて辰己の腰や腿の内側を撫でている。
 肘で思い切り鳩尾をやられたが、俺は気にせず辰己を弄った。 

 「ほら、扉が開いたぜ」
 「わぁ…すごいですね」
 「宝箱を蹴ればアイテムが手に入る。やってみろよ、なあアスタ」
 「そうで、ござるな…」
 「ありがとうございますっ!」

 満面の笑顔でアイテムを手に入れる。斬刀士は俺らを振り返った。その頬すれすれを俺の刀の腹が滑る。
 笑顔が凍り付く。裏切られたときの失望感を如実に伝える。最高だ。声すらも発しない。獣神殿のBGMのみが流れている。
 そして、お決まりの台詞を俺は吐く。

 「君の獲物はアイテム。俺らの獲物はキィイミ…」
 「ひっ…!」 

 コントローラーのボタン一つで9999のダメージの表示が数回出た。

 『あああぁぁぁあああああ!!!!!!!!!』

 金切り声が鼓膜を叩く。BGMのように愉しんだ。
 斬刀士と辰己の悲鳴を。
 アスタは身動きを全くしない。俺がM2Dを剥ぎ取ったからだ。
 斬刀士は一瞬で灰色に変わり、罵声をテキストとして吐いて消えた。

 「直也・・・っ」
 「やっぱ、俺さ。辰己の悲鳴のが好き」

 辰己の上にのしかかっている俺は辰己の首を締めた。篭った呻き声が上がる。空いている手をそのまま裾の中に手を忍ばせた。
 小さな喘ぎ声が俺を高ぶらせる。

 (俺の獲物は直也…とか言ってみたりして)
 (…笑えねぇよ)


 End
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09-12-12
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