無知は罪、僕の次の贖罪の羊


 僕は勇者だから、負けちゃあいけないんだ。

 僕は勇者だから、屈しちゃいけないんだ。

 僕は勇者だから、強くなきゃいけないんだ。


 僕は勇者だから、正しくなきゃいけないんだ。



 これぞ、クソみたいな世界とビッチな女神が賜う最高の枷。















 「勇者って、ツカレル」

 「………え」


 新しい勇者となったトキオ君は、阿呆な顔をして僕を見る。

 あーあ、君ってば可哀相。
 このクソみたいな世界の勇者に選ばれちゃってさ。


 「なぁんちゃってw ビックリした?」

 「カ、カイトさんが言うと、重みが違うっていうか…」


 まだキミはなぁんにも分かっちゃあいない。勇者だなんて、なりたくてなるものじゃないんだ。勝手に、祭り上げられるものなんだ。
 女神は僕を勇者として選んだ。何百万、何千万分の一の中から。

 ふふふ、僕の次の贖罪の羊はキミ。
 クソみたいな世界のために、勇者を演じなきゃいけないの。
 勿論、仲間はいるさ。でもね、仲間でさえ周りみたいに僕を神聖視する所があるって知ってた? そう、仲間にさえも、勇者を演じるんだ。


 「勇者って、カッコイイって思う?」

 「そりゃあモチロン! 男の憧れっつーかさ!」


 可哀相に。
 キミは青春漫画の主人公みたいに、真っ直ぐで素直。


 だぁかぁらぁ、キミみたいなのはバァーーーーーーカなんだよ!


 キミみたいなのが勇者だなんて、許せない。
 何がって?この世界さ。 僕はこの世界が大好きだけど、同時に大嫌いなんだ。
 キミがもっと、歪んでて、最悪で、愚鈍であればよかったのに。


 「それにさ、勇者って救うことが出来るじゃん!」


 キミは、勇者になってプリンセスを助ける王子を演じたいんだね。
 そのために、キミは何を犠牲にするのかな。きっと、犠牲を犠牲と思わずに犠牲にするだろう。

 知らないことは、罪だ。
 ああ、今も世界は毒を吐く。
 女神の気まぐれで、勇者は囚われ飼われる。

 勇者、という札をベッタリとくっつけて、重い枷を嵌めるんだ。
 何も知らぬ、幸せな勇者に乾杯。何も分かってない、可哀相な勇者に乾杯。

 無邪気に希望を語り、笑う小さな勇者に乾杯。



 End
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100807
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