中篇 | ナノ

【虹のほとり】




北極海に面する今にも崩れ落ちそうな崖の上に、荒れ果てた平屋のあばら屋が一軒、そこに佇んでいた。
家主の帰りを待つように、粗悪な柵門はキィキィと音を立てて開閉を繰り返す。
黒髪の男が、柵門を押した。
荒れ果てた小さな庭を抜け、少しばかり立て付けの悪い扉を叩いた。
まるで合図のようにコン、ココン、と木質の軽い音を立てる。
返事は、無かった。
男は無言で家に押し入る。
暖炉の中はとうに燃え尽きて灰になり、部屋は暖かみの欠片も無い。
暖炉の上に二つ、写真があった。
左の写真を写真立てから抜き取り懐にしまって、男は奥の部屋へ足を進める。
大きめの白いベッドの上には、枯れた向日葵が倒れていた。
「……枯れるだけなら、芽吹かなかった方が幸せだったのかもしれない」
ぽつり、男はそう呟く。
そうしてベッドに腰を降ろして、青年はサイドチェストの上に目を向ける。
そこには綺麗に写真立てに入れられて飾ってある六枚の写真があった。
どれも皆日に焼け、白むその絵は、所々人々の表情が見えない。
それでも男は、ある一枚に手を伸す。
パタリと伏せて、男はあばら屋を去った。
数日後、あばら屋は取り壊される。
男のたった数日の、幸せだった記憶と共に。
虹のほとりに宝物が眠るように、この崖のあばら屋には、男の恋心が眠っている。




07月13日




10月30日完結
多分2009年くらいの?

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