Can you swear it to your name?
「手、」
「え?」

 ロックオンに本を返そうとアレルヤは彼の部屋を訪れていた。 差し出した本を受けとろうとしたロックオンの右手に目が行き、思わず声を出してしまった。本人も思わぬ言葉だったのか、アレルヤはワンテンポ遅れて吃った。

「あ…す、みません。ちょっと気になって……、あの、見せて貰っていいですか?」

 アレルヤは謝る。伏せ目がちになってしまうのはアレルヤの癖だ。そして少し怯えながら訊いて来た。その言葉にロックオンは一度呆け、疑問を抱きながらもそれを許す。

「手を?別に構わないけれど」

 そう言うとアレルヤはそっとロックオンの手に自らの手を添えてうっすらと目を細めて微笑んだ。アレルヤの伏せられた目を覗くようにロックオンは見詰める。

「手袋外してもいいですか?」
「……いいよ。でもスナイパーの手だから、優しくしろな」

 アレルヤが手首から人差し指を突っ込んでてのひらをなぞるものだから、こそばゆくてロックオンはそれを許してしまった。 うん、優しくするね、とアレルヤは言いながらまるで薄く壊れやすい硝子細工を触るように丁寧に手袋を抜いた。白くキメ細やかな、北欧人のような皮膚が全て現われるまでに、あんまりアレルヤが丁寧に優しく手に触れるものだから、とても長い時間が流れたようにロックオンは感じてしまう。

「きれい」

 アレルヤは感嘆の息を吐く。爪の先から手首の脈の位置まで舐めるようにじっくりと見詰め、その手を自らの左頬に寄せて柔く触れた。決して擦りついたりはしない。ロックオンは触れているかさえ微妙な感覚で、焦れったくなって親指で頬を撫でた。それにアレルヤは驚いて、頬から手を離して目を見張る。

「……アレルヤ?」
「何故」

 あなたはそんなにもきれいなのかとアレルヤは呟いた。ティエリアや刹那が己に触れないのは、自分が不純で汚濁しているからだと思っていた。彼もそうだ。例えば言葉で、或いは今日のように指先で。触れるか触れないかの曖昧な距離で、いつもアレルヤを翻弄する。綺麗な顔をしてまるで悪魔のように囁くのだった。アレルヤにはそれが自分の中のハレルヤのように感じた。だから汚そうとしたのに、彼はそれを受け入れてあろう事か触れて来たのだ。

「……綺麗なんかじゃないさ。俺もお前も同じだ」

 ロックオンは立ち上がったアレルヤの腕を掴み取り、その手首につけられているリストバンドの間に指を差し入れた。先程のアレルヤのように手首を指先でなぞる。アレルヤは青褪めた顔でロックオンを拒んだ。

「気付いてないと思ってただろう?」

 だからお前さんは甘ちゃんなんだ、とロックオンは言う。ゆるゆると逃がさないよう手首を掴んだままリストバンドを外し、脈を計るように指を添えてアレルヤを診た。

「やめ、離し……!」

 脳天から背骨、指先までアレルヤは凍りついた。手に汗が滲んで、咽喉が鳴る。ヒ、と引き攣った声まで漏らし、瞳孔は不安と恐怖で揺れていた。

(何を……?)

「ほら、俺たちは何も変わっちゃいない」

 手首の傷が白くつやめいているのに、アレルヤは気付いた。細い線が幾重にも重なり、赤黒く腫れあがっている自分のものとは違う、確実に一線だけを選んでつけた傷。それは薄く消えかかろうとしていたが、角度を変えると光を持ち長い長い線を導き出した。その傷が深いものか、浅いものだったかはもう今では解らない。

「なにっこれ、……?」

 戸惑いが隠しきれずに、何度も傷とロックオンの眼を交互に見てしまう。それでも、ロックオンはいつものように優しく微笑んだ。

「This is a crime. For instance, if I can convict the crime by me, this act will become a punishment for me. For instance, do I feel rested the mind even a little if you permit this crime and the punishment?Can you swear it to your name?

Please say, Allelujah and "Permit". 」

 アレルヤには解らない速さで、ロックオンは母国の言葉でそう言った。訳も解らずに二人は抱きしめあった。背中に回された腕は、温かかっただろうか。




09/03/22 UP

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