たおやかな二人
言うなれば、あの二人は「穏やか」の一言に限る。
普段は底抜けに明るいロックオンだって、困り顔で悄気返っているアレルヤだって、二人でいる時は大人らしく、穏やかな表情で会話するのを刹那はよく見掛けた。
あの我の強いロックオンが、アレルヤの前では折れている。
あの他人行儀でよそよそしいアレルヤが、ロックオンの前では少しわがままに見える。
その二人の間の空気がいつしか甘ったるいものに変わったのはいつからだろうか?
例えばロックオンが、アレルヤの腰を引いていたとか、アレルヤがロックオンの手を引いていたりだとか。
そんな不可思議な動作をするようになったのは、いつからだろうか?
「知らないのか刹那・F・セイエイ。人はそれを「エスコート」と言うんだぞ」
「な…何ィ!?」
えすこーと?
そんな言葉見た事も聞いた事も無いぞ!といった様子で、刹那は驚きを隠し切れずに狼狽してみせた。
「【エスコート】…護衛、女性に付き添い誘導する事…ヴェーダ内辞書参照」
ティエリアの言葉に、刹那は混乱する。
護衛?送迎?女性?
ますます意味が解らない!
「意味が解らない、といった顔をしているな」
フ、と短く息を吐いて、ティエリアは眼鏡を中指で持ち上げて見せた。
「ティエリア・アーデ…」
心の中を読まれ、思わず抱えていた頭から刹那は手を放す。
「なんだその手は」
そう手をティエリアに掴まれて刹那は嫌悪で思わず振り払うが、振りほどいた手ですらティエリアの手中に収まってしまった。
「僕をエスコートするんだ。」
いやいや否、何故そうなる!?
話が噛み合わないまま、刹那はティエリアに手を引かれ何処かへと連れて行かれる。
むしろこっちがエスコートされてるんじゃ…?と刹那は内心思いつつ、ティエリアに引っ張られるまま歩行補助レバーのグリップを握った。

「違う、そっちじゃない」
「?何処へ向かうんだ」
何処へ行くかも知らぬまま、適当にトレミー内を歩いていた刹那は、既にティエリアのエスコートをマスターしていた。
後ろ向きで刹那の肩に寄り掛かるティエリアの自重を小さな刹那が支えられるのは、半無重力であるトレミーの中だからこそだろう。
片手でティエリアを支えて、刹那はその指が差された方向へと向かった。
その場所とは本来ブリーフィングを行うための一室で、談話室代わりとなっている食堂とは違い、普段は誰も居ない場所だ。
「……?」
疑問を持ったまま刹那は扉の前に佇む。
「こっちだ刹那、そこでは見つかる」
ちょいちょいとティエリアは手招きをして扉の影へ刹那を呼び込んだ。
感知式の扉は開くことなく、ティエリアは扉の脇にある手動用開閉装置に手を掛ける。
すると、ほんの少し覗けるくらいの隙間がそこに出来て、二人は縦に重なるようにしてそこを覗き込む。
刹那は眩暈がした。
そこはブリーフィングルームの筈なのに、漢字で言えば会議室なのに、お花畑があるでは無いか。
どちらかと言えば雄々しいと言ってもいい程の大の大人が、お花を散らしている。
いや実際散らしているのは星屑だ。
映写機で映し出されたそれには、絵画のように白い線が描かれている。
展望室に行けば本物が目の前にあるだろうに、その二人はわざわざそこで描き出された古いデータを眺めているのだ。
しかも計算し尽くされたかのように、濃緑のブランケット(いつだったかあれを膝に掛けてアレルヤが読書に勤しんでいたので、十中八九アレルヤの私物だろう)を二人は肩にかけるようにしてくるまっている。
ブランケットで見えないが、恐らく大股を開いたロックオンの胸の内にアレルヤが収まっているのは手に取るように理解できた。
しかしその女性的ポジションにアレルヤは納まりながらも、その逞しい背筋でロックオンを受け止めているものだから、尚刹那は眩暈がした。
「おっ…お前達が世界の歪みだァーッ!!!!」
バァン、と刹那は扉を蹴破る。
その音に二人が驚く間も無く、映写機には床に転がっていたハロが投げつけられた。
「えっちょっせっ…ハロー!」
突然の来訪者に大切な相棒を投げられたかと思えば、その来訪者はすぐに部屋を飛び出す。
それに一番驚愕し卒倒したのは、ロックオンだった。
アレルヤは驚きの余りその切れ長の目を限界までまんまると開いて、戸惑いと恥じらいを併せ持った色で様々な場所へと視線を右往左往する。
そしてその後意を決したかのように、はたまた何かを悟ったかのように、ティエリアにこう言った。
「…あんまり刹那をいじめちゃだめだよ?ティエリア」
「ふっ…解ってないな、アレルヤ・ハプティズム」
そしてティエリアは愕然として放心しているロックオンを尻目に言い放つ。
「刹那のああいう顔が一番いいんだ」
ティエリアのその爆弾を落とすかのような発言に、アレルヤは内心「ここは爆心地か」と思った。
同時に「はたして刹那の静穏な日々は訪れるのだろうか?」ともアレルヤは考える。
やっと意識が回復したロックオンは刹那を叱りに部屋を飛び出そうとするが、アレルヤは引き止めて「怒るのはハロの事だけにしてね」と釘 を刺し、自らはティエリアを如何に更生させるか、脳内でハレルヤと相談を始めたのであった。
恐らく二人の安寧も、この幼い子供達の吹き荒ぶ嵐に巻き込まれてしまう事は間違い無いのだが…今は二人、そんな事など露ほども気付いていない。
刹那はもう二度とあの二人に関わるものか、と心に決めた。

2011/02/11

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