【虚しいくらい】
そして彼女は再誕した。
父に新しい名を与えられ
母に新しい洗礼を受ける

たくさんの同胞の生き残りの成れの果てと
世界を取り巻く生きとし生けるもの全てと
彼らは向き合わなければならないのだろう

11.12/04


第一章 目覚めの音
第二章 冬の朝


虚しいくらいに。




目覚めればそこは白銀の世界だった。いつの間に「私」は、こんな温かいところに辿り着いたのだろう。
窓の外には身震いするくらい雪が降り積もっていた。
でも、あたたかい。
この温もりは。
「…おはよう、エイミー」
─エイミー?
黒髪の男のひとが、まるで恋人のようにわたしに寄り添い、眠っていた。
わたしは自分の手のひらを見る。小さい。
わたしは自分の最後の記憶を呼び戻す。くらい。
薄闇に隠されて、その殆どは思い出せなかった。
わたし?あれ、わたしって、なんだろう。
「おはよう、アレルヤ、エイミー」
わたしが私に戸惑っている最中、白い部屋にぽっかりと空いた穴のような木製の扉が開かれる。
そこからわたしの大好きな紅茶の色と、同じ髪の男のひとがあらわれた。
あれ、なんでわたしは紅茶が好きなんだっけ。
「よく眠れた?」
紅茶色の髪の男のひとに尋ねられて、こくりとうなずく。上手に声は出なかった。
「……あなたたちは?」
「ありゃ、そこから忘れちまったか」
なんとか声を振り絞って出した質問に紅茶の髪の人は綺麗な水色の瞳をまんまるにひらいて、驚きを示した。
「今はちょっと記憶が混乱してるだけだよ、エイミー。もうすぐちゃんと思い出せるから」
「そうそう。でも、俺達の事まで忘れちまってるのは少々難儀だな」
アレルヤと呼ばれた黒髪の男のひとが、後ろからわたしを抱き締める。紅茶色の髪のひとはベッドサイドに据わって、わたしを挟み込むようにアレルヤの肩を抱いた。
「でもびっくりしちゃったよね。朝起きたら、全然知らない人が隣に寝てたんだから」
またそれにこくりとうなずく。横になっているときには解らなかったが、アレルヤはとても大きな男のひとだったから。
もしきっと眠っている間に押しつぶされていたら…と考えると、背筋がぞっとした。
「だから俺は言ったんだよ。もし記憶が全部ぶっ飛んでたら、こんな小さい女の子。驚いて出てっちゃうって」
「でもニール、エイミーはちゃんとここにいてくれたよ?」
「ま、結果オーライって事か。」
紅茶色の髪の人はアレルヤにニールと呼ばれ、アレルヤの肩を抱いてる方とは違う手でわたしの頬を顎を撫でる。
まるで猫を撫でるようなそれがくすぐったくって、わたしはふいと首を逸らした。
「あ、いきなり反抗期?」
「違うよ、くすぐったかったんだよね」
不思議にアレルヤはわたしの気持ちを読み取って、そして頭を撫でてくれた。
うん、これはくすぐったくない。
「エイミー」
ニールはまたわたしの頬を撫でた。
今度は首を逸らさなくて済んで、じっとその水色を見詰める。
「今日から俺は、お前のパパだ」
そしてぎゅ、とアレルヤごと抱き締められた。
くるしい。でも、ふたりの体温は温かかった。
「……パパ?」
パパ。音に出してみる。パパ。
つまりニールは、わたしの、おとうさん、ってこと?
不思議と違和感は無く、わたしはそれを受け入れた。
「そう。ニールはきみの、パパだよ」
そしてアレルヤも、わたしごとニール…パパを抱き締める。
「そうだ、エイミー。そしてアレルヤは、お前のママだ」
「ママ?」
しかし今度は違和感を覚えた。
ママ、つまり、おかあさん。
アレルヤは、おとこのひとだ。どこから見たってそう。首は太いし、肩幅もある。パジャマ越しだけど、あったかい胸はどう見たって女の人のものじゃない。
なんで?
「若干の無理は否めないけど…」
そう言ってアレルヤは、頬を染めながら、少し気恥ずかしそうな、苦い顔をする。
「……君の両親になるに差し当たって、彼がパパなら母親の立場も必要かと思って」
「わたしの両親?」
「そう。今は事情が話せないけれど、君を引き取ることになったんだ。スムーズに君がこの生活に馴染めるように、少しだけ昔の記憶は消してある」
わたしの記憶を消した。その言葉に、怒りや哀しみよりもまず驚きが顔に出てしまった。
「大丈夫だ、そんな顔するな、エイミー。全部消した訳じゃない。必要があれば思い出すし、時間が経てば思い出せるさ」
「多分抵抗あるよね。僕も正直言ってそうだ。…でも僕は、確かに君のママになりたいんだよ」
その言葉をアレルヤが言ったとき、少し、ニールが寂しそうな表情を示す。しかし、わたしはそれに気付けない。
「俺達は、お前を守る存在になる為に、お前を引き取った。何不自由ない暮らしを与えてやるのが俺達の役目だ」
「だから全て僕達に任せてくれればいい。君は安心して、僕達を両親だと思ってくれればいい」
─愛してるから。
そっとアレルヤがわたしの耳元で囁いた。
その表情はどこか怪我をしたように痛そうで、見ているこっちがむず痒くなる顔だった。
ニールもおんなじだったようで、わたしをベッドから抱き上げて、膝の上に座らせてくれる。そしてそのまま、泣きそうなアレルヤを抱き寄せて、頬にキスの雨を降らせていた。

⇒続く。



この家には不思議な決まりごとがあった。
鏡を見てはいけない。
不思議とこの家には、姿を映す物は何一つ無かった。
窓ガラスはわたしの身長が届かない所を覗いて擦り硝子に変えられている。
テレビ画面も電気を付けていない時は垂れ幕を掛けていたし、食器もピカピカの陶器ではなく、全て鈍いプラスチック製のものだった。(これについては、わたしが落として怪我をしてしまった事に由来しているのだけれども)
あとは、出掛ける時。
帽子を被って、眼鏡を掛けるようにされる。
わたしは自分の白く長い髪をアレルヤに結い上げてもらい、それを帽子の中に仕舞った。
眼鏡はニールが、「エイミーが好きに選べるように」といろんなものがある。
色のついたサングラスや、銀縁の大人っぽいもの。飴細工のようなプラスチックのものと、太い黒縁のもの。
最初は嫌だったけれど、そのうちお出掛けする時の服装と合わせるのが楽しくなった。
鏡の無い家では、自分がどんな格好をしているのか全体は分からない。なのでいつもお出掛けのときは大騒ぎで、二人の前でファッションショーをするのだ。
そんなニールとアレルヤはとっくにお互いとお互いを見合い、支度を済ませている。
わたしはそんな二人が一番好きだった。
この間初めて大人がいくような、レストランに行ったとき、二人がスーツを着て、お互いにネクタイを締め合っていた姿はまるで本当に夫婦のようだったから。(ふたりとも、本当に格好いい男の人同士なんだけれども)
でもわたしは何故そんな変装地味たことをしなければいけないかとか、鏡を見てはいけないという理由は特に気にしていなかった。
「ねえアレルヤ、あの子達は毎朝早起きをして、どこへ行くの?」
わたしはいまだアレルヤをママとは呼べていなかった。かといってニールのように素直にパパとも呼べない。
わたしはまだパジャマ姿で、二階のバルコニーから外を眺めている。
「こらエイミー、またそんな格好でお外に出て。風邪ひくだろ」
「パパ」
バルコニーにいるわたしを抱き上げて、ニールはそのままリビングへと連れ戻す。そんな事をするパパだってパジャマじゃない、と言えば、ニールは「パパは男だからいーの」と流された。
でも『ママ』がそんな格好でバルコニーで歯磨きをしているのなら、びっくりする程のスピードでリビングに引っ張り込むのはパパだろうに、とわたしは思った。
わたしの中で二人はわたしの両親で、夫婦だとは思うけれど、二人はやっぱり男の人同士だから『わたし目線』じゃなければ、一緒に仲良く暮らせる大親友なんだろう。
きっとわたしの中でもそう思っている部分があるから、素直にアレルヤの事を『ママ』とは呼べなかった。
だって、男の人だもの。
わたしが中にいて、わたしから見れば二人はとってもかっこよくて、優しい両親だけれど、けれど。
「ああ、もう冬休みが終わったんだね」
わたしを抱きかかえるニールの横から、アレルヤは白いエプロンを解きながら外を覗き込んだ。
この家のわたしの生活スペースは基本的に二階だ。
わたしの部屋と、ウォークインクローゼット。広めのリビングと繋がったダイニングキッチン、そしてアレルヤの部屋。
一階は応接間と書斎兼図書室のパパの部屋。それとパパの趣味で四畳半の和室に、あとはお風呂と洗面所とトイレ。
他人の家は見たことはないから、これが狭いのか広いのかは解らない。(でもリビングは絶対広い。ローソファーで三人がごろ寝しても全然足りている)
「冬休み?」
わたしは聞きなれない言葉をオウム返しした。言葉の意味は、冬の休みなんだろうけれど。
「学校とかで、クリスマスからお正月くらいまでの間の短いお休みの期間だって。この国独自のシステムらしいけど」
「がっこう……」
「…エイミーも、もっと元気になれたらいつか行けるさ」
そう言ってパパはわたしをダイニングテーブルの椅子へ座らせた。
「わたし、げんきだよ?」
走って飛んで、転んで、時々怪我をして帰るくらいには、わたしは元気だと思う。
「ばか。まだ時々熱が出るだろ」
わたしは体が弱いらしい。
だから学校には行けないのだとパパは言う。
毎月決まった日に、緑色したパパの車に乗って街の大きな病院へ行く。目に見えないくらい細い針の注射器が肌に押し付けられ刺されていく様子は実際には痛みを感じなくても、刺されている事実とその動作を見ているだけで空想の痛みが頭の中で再生された。
「……げんきだもん」
ぎゅ、とパジャマの裾を握った。
外の世界はとても近い。
なのにわたしには、わたしの意思で出歩く事は叶わなかった。


⇒続く



その日は、嵐だった。
風が窓を鳴らし、雷雲立ち込める空は遠くに光と影をうつす。
わたしは一人、ベッドに横たわっていた。
久々の熱に体はだるく、眠りを苛む。
窓の外からまるで死神が、空から鎌を光らせているように見えて、怖くて、寂しくて。
こっそりと部屋を抜け出して、階段を降りる。
アレルヤの部屋はすぐ隣だったが、どうしてか私はいつも夜眠れない時はパパのベッドで一緒に眠らせてもらっている。
……時々、わたしはアレルヤが怖いのだ。
理由は分からないけれど、アレルヤはわたしのする事する事すべてを否定する。
何かから守るように、わたしを否定するのだ。
よくよく思えば、この家のみょうな≪やくそくごと≫を言い出したのは、アレルヤだった気がする。
だからどちらかといえばわたしのやりたい事をやらせてくれるパパの方がわたしは好きで、こうして眠れなくて怖い夜をやり過ごす時は、パパの寝室におじゃまになっていた。
パパの部屋は書斎代わりになっている。
大きな本棚がひとつ壁に取り付けられていて、最近では滅多に見ないパソコンの本体とモニターが机の上に置いてある、前時代的な書斎だ。
「いや、」
扉を開けようとした、その時だった。
誰かの声が微かに聞こえた。
誰かががその部屋の中にいるのをわたしは見た。
その侵入者がきっと扉をしっかり閉めなかったのだろうか、僅かに開いた隙間から、わたしにはそれが見えた。
「だめ……止めて」
今度ははっきりと、その声が聞こえる。
闇に慣れた瞳には、その姿も扉の隙間から確認出来た。
アレルヤ。
この家の、もう一人の住人。
わたしの母親役。
アレルヤは寝台に横たわるニールの首を絞めていたのだ。
「あれは誰なの?僕のものなのに、どうしてニールが奪うの?」
やめて、、、
手元までは見えなかったのに、何故かわたしはそう思ってしまった。
パパの上に馬乗りになったアレルヤの肩から寝間着がずり落ちる。
まさしく取り乱したと言っていい程、普段のアレルヤとは違った雰囲気を纏っている。
前後の言葉の意味を成さないアレルヤの言葉は重苦しく嘆き紡がれる。
「どうして……」
恨み言のように言葉を吐いたアレルヤは、パパの上から降りて部屋を出ようとこちらに向かって来た。
逃げなきゃ、そう本能的に感じた。だけど体が動かない。手が震える。足が竦む。目が離せない。
「俺たちの、ものだろ……」
立ち去ろうとするアレルヤの手をパパは掴んで、引き留める。
どうやら起きていたらしく、アレルヤは振り向いて言葉を無くしていた。
そして意を決したように、アレルヤはパパに尋ねる。
「いつから起きていたの」
「最初からに決まってるだろう」
「……貴方はもっと、鈍い人かと思ってた」
「鈍かったら、もっと昔に死んでる」
「死んだくせに……」
その会話の意味は、わたしには分からなかった。
「……エイミーって、だれ」
「俺たちの娘だ」
「ちがう、あの子は……」
「その名前は、妹さんのでしょう……?」
がん、と脳天から鈍器で殴られたような気分がした。
クラクラ足元がふらつく。目の前が歪にゆがんで、今にも倒れてしまいそうな気持ちになった。
後ずさり、その場を走り去る。
ぱたぱたと足音をたて、自分の部屋の扉を思い切り閉めた。
(パパ?パパ!パパもわたしにウソをついてたの!!)




もうちょっと話を明るくしましょう!



青葉は昨日の夜に降った少し早い梅雨の雫に濡れ、わたしは新しく貰った傘を腕にぶら下げて、ながぐつを履いて学校へと向かった。
横に長い四角形の下駄箱には、膝下のながぐつすら入らない。というか、たくさん並んだその四角の集合体には、三年生ごろを境に長靴の姿は全くと言っていい程姿を見せなかった。
買ってくれた二人には悪いが、そのながぐつは封印しようとわたしは思う。
朝の投稿時刻の校門口にはたくさんの先生が並んで、各地域ごとの班が登校しているかを確かめている。六年生の班長は先生に欠員を伝えていた。この間わたしが遅刻して来た日には、先生は居なかったが。
席に付くと机のディスプレイに新しいプリントが配信されているというランプが点滅していた。きっと今頃、パパは会社で、アレルヤはおうちで、このプリントを読んでるだろう。
≪…四年B組エイミー・ディランディさん至急職員室までお出で下さい…繰り返します…≫
お昼休み、放送が校内に響き渡る。わたしは友達としていたドッチボールの輪を抜けて、放送に従って職員室へと向かった。
「ああ、ディランディさん」
「校長先生」
「ごめんなさいね。急に呼び出したりして」
「だいじょうぶです。でも、どうして校長先生が?」
「貴方に会いたいという人がいらっしゃってね。…色んな事情で、先生たちは同席出来ません。一人で大丈夫ですか?」
「……?はい」

校長室の扉は、厳めしい木製の扉だった。
ゆっくりとその扉を校長先生が開いてくれて、わたしは奥へと入る。
黒い革張りのソファが二つ、向かい合わせに並んでいた。
そこには、銀髪の、女の人が立っていたのだ。
「エイミー・ディランディね」
「……はい……」
女の人は緑色の軍服のような制服を身に纏い、わたしを椅子に座るよう促しながらも、立ったままで話を始める。
「驚かせたようで悪いわね。私は地球軍の…調査員、ソーマ・スミルノフです」
「ちょうさいん…ですか?」
「ええ。私達はとある≪組織≫について調べています」
「この人物に、見覚えは無いかしら」
二枚の写真
「……ええと、わたしの、両親、ですけれども」
「そうね、戸籍上は」
「≪戸籍上は、、、、≫……?」
「貴方を引き取る前、この二人は私達が探している組織の構成員だったのよ」

ガタリと大きく音を立て、席を立つ。
「パパとアレルヤを……逮捕するの?!」
「そうね、場合によっては」
「貴方、鏡を見た事ないの?」
「か、かがみって」
結い上げた髪を解いて、眼鏡を取る
「私と貴方は似て非なるもの……しかし何よりも近しいもの」
「歳こそ違えど、私達はこんなにも似ている……」
「あ、あなたは一体誰なの?!わたしの、何なの?!」
「ここから先は推測。私と貴方は、とある女性のクローンなのよ」
「クローン……?」
「人間のクローンは、法によって厳しく禁止されている」
「クローンはオリジナルよりも劣るから、、、、、、、、、、、、、、、、、」
「だけど私達は、オリジナルの弱点を克服する為に産まれさせられた」
「いや!聞きたく無い!」
「……もし、アレルヤが私に協力してくれるのなら、こんなの私達で終われる」
「その時は……二人を捕まえないと約束するわ」
あんな事言ったって、ソーマさんは軍の人だ。
もし本当にパパとアレルヤが犯罪者なら、これは私を人質にしているのだ。



車の中で、初めて眼鏡も何もしていない自分の顔を見た。
いつもアレルヤに結い上げてもらっている髪も解いて、鏡を見た。
ほんとうに、ソーマさんとおんなじ顔だったのだ。
ソーマさんは推測で、ある女性のクローンがわたし達だと言った。
でも、もしかしたらその女性は、私のほんとうのお母さんかもしれない。ソーマさんはその人の双子の妹か何かで、わたしを驚かそうとしているのだ……そして、わたしをパパとアレルヤから引き離そうとしているのだ……そう考えてみたけれど、どこか話の辻褄が合わない。
叔母と姪が、こんなに似るのは有り得ない。



「E-57…久し振りだな」
びくりと体が跳ね上がる。
「ソーマ・ピーリス…!」
その跳ね上がったわたしの体を、アレルヤは抱き上げてわたしの背後に視線を寄越す。
「ソレスタルビーイングの構成員として、お前を再逮捕する、と言いたい所だが……」
「事情が変わった」
「何故、その少女を攫った?」




「……あの子には、もっと別の生き方があるんだ」
「別の?」
「戦いも、争いも、……憎しみも、知らなくていい生き方だ」
「僕の女神は元から知らない」
「だけど目覚めてしまったなら、いつかは知ってしまう」
「じゃあどうすればいいの?!」
「その為の俺たちだろう!」



「やがて訪れる女神の再来の時の器となる為に」

2013.6.24

↓変える
ガタッ席を立つ
「パパとアレルヤを……逮捕するの?!」
「そうね、場合によっては」
「貴方、鏡を見た事ないの?」
「か、かがみって」
結い上げた髪を解いて、眼鏡を取る
「私と貴方は似て非なるもの……しかし何よりも近しいもの」
「歳こそ違えど、私達はこんなにも似ている……」
「あ、あなたは一体誰なの?!わたしの、何なの?!」
「ここから先は推測。私と貴方は、とある女性のクローンなのよ」
「クローン……?」
「人間のクローンは、法によって厳しく禁止されている」
クローンはオリジナルよりも劣るから、、、、、、、、、、、、、、、、、
「だけど私達は、オリジナルの弱点を克服する為に産まれさせられた」
「いや!聞きたく無い!」
「……もし、アレルヤが私に協力してくれるのなら、こんなの私達で終われる」
「その時は……二人を捕まえないと約束するわ







家に帰って、わたしはそれをすぐにアレルヤに伝える事が出来なかった。
足が震えて、玄関を開ける事すら出来なかった。
ソーマさんが後ろに立っている。
逃げられない。
あんな事言ったって、ソーマさんは軍の人だ。
もし本当にパパとアレルヤが犯罪者なら、これは私を人質にしているのだ。
車の中で、初めて眼鏡も何もしていない自分の顔を見た。
いつもアレルヤに結い上げてもらっている髪も解いて、鏡を見た。
ほんとうに、ソーマさんとおんなじ顔だったのだ。
ソーマさんは推測で、ある女性のクローンがわたし達だと言った。
でも、もしかしたらその女性は、私のほんとうのお母さんかもしれない。ソーマさんはその人の双子の妹か何かで、わたしを驚かそうとしているのだ……そして、わたしをパパとアレルヤから引き離そうとしているのだ……そう考えてみたけれど、どこか話の辻褄が合わない。
叔母と姪が、こんなに似るのは有り得ない。
「ただいま……」
重く、扉を押す。
「おかえり、エイミー。今日は早かったんだね」
わたしの声を聞いて、家の奥からパタパタとスリッパの音を立ててアレルヤが迎えに出て来る。
いつものようにエプロンを纏ったアレルヤにわたしは飛び付いた。
「エイミー?どうかしたの」
いつもなら脱いだ靴を揃えるけれど、それすら忘れて駆け足に靴を脱ぎ捨てたわたしはぎゅっとアレルヤの服を握り締めた。
脱ぎ散らかしたままの靴をアレルヤは気にしながら、その普段と違うわたしの行動に、そっと背中をさすりながら尋ねる。
「E-57…久し振りだな」
びくりと体が跳ね上がる。
「ソーマ・ピーリス…!」
その跳ね上がったわたしの体を、アレルヤは抱き上げてわたしの背後に視線を寄越す。
「ソレスタルビーイングの構成員として、お前を再逮捕する、と言いたい所だが……」
「事情が変わった」
「何故、その少女を攫った?」





「……あの子には、もっと別の生き方があるんだ」
「別の?」
「戦いも、争いも、……憎しみも、知らなくていい生き方だ」
「僕の女神は元から知らない」
「だけど目覚めてしまったなら、いつかは知ってしまう」
「じゃあどうすればいいの?!」
「その為の俺たちだろう!」



「やがて訪れる女神の再来の時の器となる為に」

20146.24

3人で暮らし始めて暫く経ってからの出来事です。


その日は、嵐だった。
風が窓を鳴らし、雷雲立ち込める空は遠くに光と影をうつす。
わたしは一人、ベッドに横たわっていた。
久々の熱に体はだるく、眠りを苛む。
窓の外からまるで死神が、空から鎌を光らせているように見えて、怖くて、寂しくて。
こっそりと部屋を抜け出して、階段を降りる。
アレルヤの部屋はすぐ隣だったが、どうしてか私はいつも夜眠れない時はニール……パパのベッドで一緒に眠らせてもらっている。
……時々、わたしはアレルヤが怖いのだ。
理由は分からないけれど、アレルヤはわたしのする事する事すべてを否定する。
何かから守るように、わたしを否定するのだ。
よくよく思えば、この家のみょうな≪やくそくごと≫を言い出したのは、アレルヤだった気がする。
だからどちらかといえばわたしのやりたい事をやらせてくれるパパの方がわたしは好きで、こうして眠れなくて怖い夜をやり過ごす時は、パパの寝室におじゃまになっていた。
パパの部屋は書斎代わりになっている。
大きな本棚がひとつ壁に取り付けられていて、最近では滅多に見ないパソコンの本体とモニターが机の上に置いてある、前時代的な書斎だ。
「いや、」
扉を開けようとした、その時だった。
誰かの声が微かに聞こえた。
誰かががその部屋の中にいるのをわたしは見た。
その侵入者がきっと扉をしっかり閉めなかったのだろうか、僅かに開いた隙間から、わたしにはそれが見えた。
「だめ……止めて」
今度ははっきりと、その声が聞こえる。
闇に慣れた瞳には、その姿も扉の隙間から確認出来た。
アレルヤ。
この家の、もう一人の住人。
わたしの母親役。
アレルヤは寝台に横たわるニールの首を絞めていたのだ。
「あれは誰なの?僕のものなのに、どうしてニールが奪うの?」
「やめて、、、」
手元までは見えなかったのに、何故かわたしはそう思ってしまった。
パパの上に馬乗りになったアレルヤの肩から寝間着がずり落ちる。
まさしく取り乱したと言っていい程、普段のアレルヤとは違った雰囲気を纏っている。
前後の言葉の意味を成さないアレルヤの言葉は重苦しく嘆き紡がれる。
「どうして……」
恨み言のように言葉を吐いたアレルヤは、パパの上から降りて部屋を出ようとこちらに向かって来た。
逃げなきゃ、そう本能的に感じた。だけど体が動かない。手が震える。足が竦む。目が離せない。
「俺たちの、ものだろ……」
立ち去ろうとするアレルヤの手をパパは掴んで、引き留める。
どうやら起きていたらしく、アレルヤは振り向いて言葉を無くしていた。
そして意を決したように、アレルヤはパパに尋ねる。
「いつから起きていたの」
「最初からに決まってるだろう」
「……貴方はもっと、鈍い人かと思ってた」
「鈍かったら、もっと昔に死んでる」
「死んだくせに……」
その会話の意味は、わたしには分からなかった。
「……エイミーって、だれ」
「俺たちの娘だ」
「ちがう、あの子は……」
「その名前は、妹さんのでしょう……?」
がん、と脳天から鈍器で殴られたような気分がした。
クラクラ足元がふらつく。目の前が歪にゆがんで、今にも倒れてしまいそうな気持ちになった。
後ずさり、その場を走り去る。
ぱたぱたと足音をたて、自分の部屋の扉を思い切り閉めた。
(パパ?パパ!パパもわたしにウソをついてたの!!)


2013

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