四角く切り取られた世界
”僕”は遠く地平線に流れて行く雲を見るのが好きだった。

朝、ユルトを出ると東に太陽が顔を出し、西にはうっすらと消えかけの月があった。
既に大人達は目覚めていて荷物を纏め、ある者は狩りへとある者は朝餉の用意をする。
誰かが父親のように振る舞い、誰かが母親の務めをこなす。
僕はこの家族が大好きだ。
この遠く地平線を眺められる草原が大好きだ。

土の家に住むものがいれば、木の家に住むものもいる。瓦のついた家に住む人もいる。
草原を西へ東へ渡り歩く中で、色々な人を見かける。
東へ進めば進むほど、草原は姿を変え土は均され、木でも瓦でもないもので土地も建物も舗装されていった。
西へ進めば進むほど、土は水を失い干からび、砕け、砂となり、風が吹き荒ぶ。人はオアシスに集まり、土塀の家が連なっていた。

そして気が付けば、僕の世界は四角く切り取られ
宇宙―そら―が見える頃には
全ては灰色に色を失っていた。

そのあとのことを、”僕”は覚えていない。

”ぼく”の世界は色が無かった。
灰色の世界で目覚めて、普遍的な毎日が流れる。
白い服。白い壁、白い天井。何もかもが白で満たされて、
誰かの顔だけが白い世界に浮かんでいるようだった。
それは大人の顔であったり、子供であったり。
男であったり、女であったり。
それの顔のひとつが、ようやく自分の顔であるということに気付いたのは
幾日もかからなかった。
何もかもが白い世界に色が付いたのは、”君”の金色の瞳を見たとき。
”君”にアレルヤと歓びの歌を授けられたとき。
だけどそんな幸せな時間はそう長くは続かなかった。
ただ黒い世界にぽつりと、溶岩が。
轟々と噴き上げるマグマを眺めて、引力に引き寄せられて。
手を伸ばす。いつか”僕”がいたかもしれない、かの星へ。
青い星へ。帰れるのなら、”ぼく”は”僕”に戻れるのかもしれない。

”ぼく”は再び、この世界から色を失った。


***





だって、そんなにも綺麗な水色は、他に見たことが無かったんだもの。
こんな事を言うぼくのことをきみは笑う?
水色を他にどう言えば良かったのか、あの時のぼくには分からなかったんだから。
”ちきゅうのいろみたいだ”
今でもそう思う。綺麗な色。海の色、空の色。そのすべての色がここに宿っている。
そんな気がする。





***


「それはどこ?遠い国?
 行き交う人たち、みんな
 あなたみたいに青い目をしているんでしょう」

「いつか遠い砂漠でぼくは、らくだに揺られて
 終わりのない旅をしていたんだとおもう」

「こんなことを言うぼくを貴方は笑うかい?
 ……でも、いつか、この戦いが終わったらぼくは、どこへいくんだろう……」

空を眺める視線が。
窓の外に覗く夜空が。
四角い窓から見える景色が。
あなたが見せてくれるこの世界が、
それが僕のすべてだった。




***




「いつか宇宙の果てに連れて行ってくれると
 あなたは言ったね」

今もあの頃のように覚えている
信じてまっている

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