愛を間違え


 今日もまた、夜が訪れた。ガラス越しに広がる一面の闇はカーテンのようにふわりと僕を包み込み、一瞬の煌めきがまた刹那と燈るが、その輝きは鏡のようなもので、僕はそれを識りながら綺麗だと思った。そう此処は宇宙。人類が四世紀ほど前にやって来た、底知れぬ海。そしてここは、天上の人を名乗る者の居住する方舟――プトレマイオス――だ。果たしてその天上の人が本当に運命の鍵を握っているかは、タダの実行者である僕は知らない。はあ、と僕は溜息を吐いた。ソトとナカを隔てる大きなガラスの壁が僕の溜息で曇ってしまったのを見て、附いていた手で結露した水滴を拭った。この溜息は憂鬱なるものではなく歓喜によるものだ。こうしてこのトレミーで、或いは地上の駐屯地である南の島や先進国のホテルで、何事も無く眠れる夜だけ訪れる儀式。端から見ればとても怪奇に見えるその行為は、僕達二人にとってはまるで神聖でしかし悪魔に捧げられる贄の羊のような、複雑で大切なものだった。時には獣のようにその身を貪り尽くし、時には犠贄のように内臓を抉られた。それはとても甘美で恍惚とするが卑しく醜悪で、僕はそれに魅了された。瞳越しに映る我が半身に、感覚を委ね疑似的な自慰性交を繰り返す。犯されながら犯して、犯しながら犯される。抱かれがら抱いて、抱きながら抱かれる。僕は僕のナカにこんな目を背けたくなるような想いを抱いているなんて、彼以外は知らない。ああどうぞ今夜こそは、と、打ち震える我が身を抱き締めた。
「アレルヤ……?」
 後方から不意にロックオンの声を聞いて、僕は弾かれたように振り返りその瞳を見詰めた。いつもは冷めた碧眼が情欲に燃えていて、こころなしかうっすらと涙の膜が張っていた。ロックオンが一歩一歩僕に近付く度、ゾクゾクと背筋が震えた。吐息が熱いと感じる程に近付いた躯は白い肌を赤く染め、僕の浅ましい肉体を背中から抱き締めた。興奮しているのはお互い様で、寧ろ発情している、の方が正しいくらいに。
「っふぅ、んっ」
 ロックオンの白いてのひらを包み込んでいる使い馴染んだガントレットが後ろから僕の肉体を舐めるように伝う。ひたひたと順に胸筋、腹筋、股ぐらとへその手が触れていく。ガントレットの革の感触が何処か生々しく伝わった。その度体ががくがくと揺れ、もっととねだるように腕に力をいれてロックオンに体を押し付ける。
「ひ、ぁっ!」
 彼の吐息を含んだ舌がぴちゃ、と粘着質な水音を立てて首筋にむしゃぶりつく。つつ、と首とアンダーシャツの境目をなぞりながらその舌が耳元に届く頃彼の右手はそろそろとアンダーシャツの中に入り込んで赤く勃ち上がった胸の突起を転がしていた。
「あっ!や、揉まないで!!ぁ、ふっ」
 胸全体を揉みし抱いたり、突起をくにくにと弾力を楽しむように摘んだり擦りながら、時折引っ張る。左手は腰を撫でながら降りていき尻を撫で上げてから股ぐらを揉みしだいた。そこらは全て、彼に開発されたところだ。なかでも乳首は女の子より感じるくらいに敏感になって、何度も揉まれたせいか胸部は元々あった筋肉の上に薄く脂肪がのり女性的なものになってしまった。それでもロックオンは僕の乳首をこねくりまわして、さらに大きくしようとする。感じすぎる乳首と勃起した局部を揉まれる快感に、僕の肉茎は下着の中でトロトロと蜜を垂れ流している頃だろう。
「アレルヤ……していいか?」
 ここまでしておいて、今さらだと思った。既に彼から与えられる快感に興奮しきった僕の肉体はあちこちが熱くなり彼を求めている。早くその手で触れて欲しい、早くその手で熱く滾る肉茎を擦って欲しい。ロックオンは僕の沈黙を肯定と取ったのか、ベルトのバックルに手を掛け前を寛げると下着の中に左手を突っ込んだ。そこで僕ははっと我に帰った。
(僕は……今何を考えた?)
 おかしい。一瞬でも彼自身を求めてしまった。これは僕とその半身――ハレルヤ――が他人を介して繋がる降臨術のようなものの筈だ。
(勿論ロックオンだって、僕に誰かを投影している筈なのに)
「えっ……ちょ、ちょっと待ってっ」
 ロックオンの手はゴソゴソと寛げたズボンから僕の性器を擦り上げながら取り出す。待望んだ快感に、僕の性器は亀頭からにじみ出た汁で既にぬらぬらと濡れていて天を仰いで隆起していた。違う、そうじゃない、だって此処は……――!
「待てない、もう駄目、無理っ」
「待って、まっ……!」
 ぐりっと尻に当る固いものに驚き、僕は絶句した。ガラスに映る彼の瞳はゆらゆらと燃え上がり、まるで獣と同じ本能のままの色をしていた。少し視線をずらせば、彼の瞳と同じく劣情に燃えた表情をした僕の眼があった。今日の僕は、捕食される者だ。此所は展望室で、いつ誰が来るか解らない部屋なのに、僕はロックオンを一心に求めていた。だがそれを僕のナカの残り僅かな理性、羞恥心が許さなかった。
「は、ァ……せ、めて、鍵!ぁっ……鍵だ、けでも、!」
 性急に肉茎を擦り上げられ腰を擦り付けられる快感に身悶えしつつも、羞恥に涙を溜めて必死に訴えるとロックオンは腰を引き僕の背後から出入り口へと戻った。カタカタとキーを操作する彼を後目に、僕は性器を露わにしたままずるずるとガラスに凭れかかりながらへたりこんだ。息が荒い。はぁ、はぁ、と何度も深呼吸をするが、熱に茹だる体は容易には冷めなかった。寧ろ興奮は冷めやらず、どんどん高みへと昇ってゆくのだった。
「鍵閉めた、から、アレルヤぁ、もういいよな?」
 こちらに擦り寄りながら、ロックオンは何時も羽織っているジャケットを脱ぐ。その一連の行動さえ煩わしいらしく、しゃがみ込んでいる僕の顔に首を回し込んでキスをした。最初はちゅ、ちゅっと唇を合わせるだけの可愛らしいキスから、やがては唇や舌を食み、舐めて絡める深いものへと変貌していった。
「ぁ、っふ……んっぅ」
 くちゅくちゅといやらしい水音が響き、僕はうっとりとロックオンの顔を見詰めた。彼も僕を見詰めながら、僕の履いていたブーツとズボン、下着を脱がせると下半身を覆うものはもう何もなくなってしまった。もしこの船の近くを輸送船なんかが通ったら僕達は丸見えだ。恥ずかしさと、これから与えられるであろう快感への期待で顔が更に熱くなるのを感じた。それを知ってか知らずか、彼は僕の体を己の方に向け膝に手を掛け両足をぐっと開いてその間に割り入った。
「ひゃ、ぁあっ……!」
 アンダーシャツをたくし上げ、僕の胸元に唇を寄せてこりこりとしこった乳首を舐めたり甘く噛んだりして嘖む。左手で反対側の乳首も押しつぶしたりガントレットの縫合部で引っ掻いては、ロックオンは僕の反応を楽しんだ。するとじんじんと熱くなり、もっとして欲しくなってしまう。
「はぁっ、ロ、ロックオ、ン……ぅぁ、もっと、もっと……!」
「解ってる、……」
 一度ふっとロックオンは顔を上げて僕の顔を怪訝そうに見ると、丸出しの僕の下肢に手を掛けた。とろとろと精を溢れさせる肉茎を伝って、これから彼の肉茎を受け入れるであろう奥まった場所に指を突き立てる。既に濡れそぼったそこは、若干の痛みを伴いながらも革のガントレットを纏った指を受け入れた。
「っんぅ、ァ、あ、はっん!ゃ、ぁあっ、ふあぁ」
 にゅぐにゅぐと指で内壁を撫でながら掻き混ぜたり、時折中を拡張するように指を折り曲げたりする。折り曲げたりする内に、指が中の性感帯を霞めた。ビクビクと腰が揺れて、僕が感じているのをロックオンに気付かれる。
「アレルヤ、ココがイイのか?」
 僕の体に覆い被さるようにして、ロックオンは僕の耳元で囁いた。その熱を孕んだエロチシズムなロックオンの癖のあるテノールヴォイスが僕の耳を甘く犯す。僕の内部を犯している右手とは別に、先刻まで膝に添えられていた左手は、今は僕の胸元にまで上ってきていた。僕の腕はロックオンの背中に回され、必至にしがみつきながら、足は床を爪先に力を入れて腰を浮かせ、ロックオンの中心に性器を擦り付けていた。冷たいベルトのバックルや彼の衣服に擦れて、焦れったい快感が増して行く。
「ヤ、ダぁっあ!ぁひっ、ふぁ…んンッ」
「ココかぁ」
 恥ずかしいポーズをしていることに気付いて僕は足を閉じようと力を入れるが、ロックオンはそれを手で押し開いて、挿れている指を増やした。質量に比例して痛みも増す。だが前立腺をグリグリと押される快感には到底敵わなかった。
「ァあっあっあっ、やっんぁっ、ひ、ぃっ、き、ゃぁああああああっ!!」
 集中的に前立腺を内側から押され、耐え切れずに一度目の射精をしてしまう。ドクドクと僕の肉茎は脈打ち白濁の粘液を吐き出した。気持ちが良過ぎて頭がクラクラする。しかし、この行為の先にはさらに激しく、気持ちいい行動が待ってるのだと思うと、精液を出したばかりの僕の肉茎はまたすぐに熱を持ち、頭を擡げた。
「もう挿れても大丈夫か……?」
「はぁ、はぁ…ふっ、ん……ロックオン、もっと、中に欲し…です……っ」
 ロックオンは挿れていた指で縁を拡げた。もどかしさに早く、とねだるがロックオンは縁をなぞったり、軽く出したり挿れたりするだけだった。歯痒さだけが体を甘く支配する。
「すげえ、物欲しそうにヒクヒク動いてる。指を添えると中に誘い込むように吸い付いてくるな」
「……!?っ虐めないで、下さ…!」
 自分の恥ずかしい穴の実況など聞きたくないと首を背ける。ロックオンは僕の性器に顔を近付け、軽く竿を食んだ。ぺろぺろと飴を舐めるようしながら、袋に吸い付いてころころと口の中で転がし、自分のベルトを外してズボンを寛げて中に手をいれていた。息遣いが皮膚で解る。すぅ、はぁ、と呼吸して、熱っぽい息が僕の性器にかかった。
「はァ……ん、アレルヤの臭いがするな……」
 顔を肉茎に擦り付けながらロックオンは両手で自らの性器を扱きオナニーを始め、涎を垂らしてしゃぶりだした。僕の肉茎を喉の奥まで咥え込んで、舌で亀頭を包み込む。まるでAVのようなシチュエーションに、視覚的にも感覚的にも僕は崖っぷちだった。
「〜っぁ、ふあ、くっぅ」
 このままフェラチオをしてもらうのもいいし、ロックオンの頭を掴んでイマラチオするのもいいけれど、先刻触られた中にも欲しい。欲望が脳内を渦巻く僕を無視してロックオンは徐々に舐める場所を変えていく。腹筋を舌でなぞられるだけで、ぞくぞくと腰が震えた。んっ、んぅ、と舐めている彼の方が喘ぎだして、もうこのままじゃ今日は中に挿れないでハイお終い、になりそうで怖くなった。
「やだぁ、ロックオン…焦らし過ぎ…早くなかに挿れて…っ欲しいのに……!」
 我慢が出来なくなって、ロックオンの顔の横に腕を割り込み自分で指を出したり入れたりを繰り返した。ちゅぽん、と濡れた音を立ててロックオンが僕の性器から口を離す。舌と性器を繋いでいた唾液と先走りが混ざった液がぷつんと切れて、ロックオンの口元を伝う。
「んぁ……悪い、あんまりおいしそうだったから、つい」
 名残惜しそうに亀頭を一舐めして、ロックオンは上体を起こし僕の両足を抱え上げてぴとり、と腰を尻たぶに当てた。緩く腰を揺らしながら僕に伸し掛かる。肩に掛かる重力が心地良い。深く息を吸っては吐いて、これから来る質量に耐えようと用意をする。
「あ、っ!はぁあぁあぁぁぁああ!!ァあんっ」
 入口にロックオンの肉棒の先端がくっ付けられ、ぐ、ぐ、と僕の中に侵入してくる。背骨は反り返り、僕の性器も天を扇ぐ。亀頭で前立腺をゴリゴリと押し上げられ、一番太い所がふちを通り過ぎて中に収まると、待望んだ快感に僕は今にも昇天してしまいそうだった。
「あっあっやだ、死にそ、ひぃっあっ!!」
 ひくつく内壁に熱い肉塊を感じる。その長大な一物に前立腺を狙い突かれ、腰を振られる度肌膚と肌膚がパンパンと音をたててぶつかった。激しい出入を繰り返し、奥へと入ってくるのだ。快感と内側を掻き混ぜられる苦しみに僕はロックオンの背中に腕を回し堪える。ぎゅぅ、と彼のシャツを握って後はもう与えられる快感に身を任せるに他無らなかった。
(ああ、もうどうでもいいや。……僕は間違ってないよね?ねぇ……)
「はあっ、ぁ、ハレルヤ……ぅくっ、ぁ、あーっ」
 ガツガツと掘られて、思わず思っていたことが声に出る。掻き抱くように揺さぶられながらも、お互い目を逸らさずに見詰め合っていた。その言葉を呟いた時、彼の瞳の翡翠には女のように股を広げ淫らになり、犯されて感じている我が半身が映った。ああ、なんて綺麗なんだろう。その景色に視覚的、精神的に興奮して、僕の肉茎はドクリと脈打ちまた熱を含んで大きくなる。
「セックス中にっ、ぁっ、お祈りかっ?…ふっ」
 僅かに喘ぎを漏らしながら、ロックオンは僕に尋ねた。ああ、この人は知らないのだと僕はもう一度思い知る。その一言で現実に引き戻されたのと同時に、快感の底方へと堕とされた。にやりと微笑んで、その瞳を覗き見た。
「ぁはっ、そうかも、しれないっ、ひぁんっ!」
 ガクガクと犬のように腰を振って足をロックオンに絡み付かせる。両手は背中から両頬へと滑らせるようになぞって、耳に髪を掛けてそこに指をすり入れて頭を掴んだ。
「んっ、も、出る…ぅ、ぁ……」
 律動のスピードを早め、そろそろ1ラウンド目が終わる合図が出た。ギリギリまで引き抜いてはずぽんっと音がしてると錯覚する程に奥に入ってくる。背中にあるのがガラス一枚だなんて、今はもう忘れていた。満点の星々が目の前に瞬いて、激しく中を掻き混ぜられて絶頂を迎えようとしていた。
「あひっ、もうだめ、いく、いっちゃ、ぃっー……ぁやぁああぁあぁぁあんっ!!」
 僕がアナルの快感でいってしまう前に、ロックオンが絶え切れずに中で射精をしてしまった。熱い液体が直腸いっぱいに注がれ、奥に溜まる。その勢いが僕にまで引火して、絶頂を迎えた。
「っく、ぁ……中に出しちまった……」
 息を乱しながらもたれかかっていたロックオンが、中出ししてしまった事に気付き、ばつが悪そうに肉棒を僕から抜こうとする。
「待って……今日はもうちょっと、そのままで……」
 絶頂の余韻で火照った体で、ロックオンに絡み付く。肩口に顔を寄せて、耳元でこう囁いた。
「僕は、――……」
貴方のことが、好きみたいです。
 その言葉にロックオンは目を見開いて驚きながら、その後やっと気付いたのか、と目を細めて微笑った。
(間違って、ないよね?)
 間違った方向性を、やっと正しい軌道に導けたのなら、これはこれで新しい愛の在り方なのかもしれない。
 間違った愛を矛盾して道を逸れたのかもしれないが、これはこれで新しい愛に廻り会えたのかもしれない。
 うん、これはこれで、いいんだ。




09/03/15 UP

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