幼少期ネタ
灰色の街にオレンジのリボンを 2014 3/6




街外れの公園はいつも子供達で賑わっている。はふふふふ
ブランコは絶え間なく漕がれ続け、砂場にはスコップとバケツとミニカーが埋められていた。
アーチ型をした雲梯子には連結した二本の縄跳びの端が結び繋げられ、子供たちが大縄跳びの練習をしている。
ぐるぐる回るジャングルジムは危険だからと去年撤去された。
公園の横の通りを跨げば、そこはマンションが立ち並ぶ住宅地だ。少し行けば一軒家もあり、その通りは通学路でもあった。朝は子供達に出勤する会社員が混ざり合う。夕方は買い物帰りの主婦と遊び疲れた小学生。公園に子供はたちが見えなくなれば、中学生、高校生、そして暖かな家庭へと家路を急ぐサラリーマン。
夕方を少し過ぎた時間。
あたりは薄暗闇につつまれ、夕陽なんて見えない街中からは、紫色の空だけがマンションの隙間から見えた。おそらくは太陽は既に沈みきったのか、ぽつぽつと街路灯が点灯されていく。
その日は酷く寒かったのを彼は覚えている。もう誰もいない公園の横を通るのは少し怖かった。だけど寒いので少しでも早く家に帰りたくて、少年は公園の中へと進む。彼の家は、公園の反対側だ。いつもなら子供達で騒がしい公園を迂回して家路につく。公園の中は子供の領域だから、小学生以来通っていない。そういう事に羞恥を抱くようになった少年…ニールは、まだ十三才の、中学生だった。
ずんずんと広い公園を進む。ふと、視線の端に山のような遊具が目に付いた。滑り台と、ロッククライミングのような突起が合わさった外見のその大きな山の中は空洞になっている。女の子たちがおままごとをするときは必ずそこに陣取りって、中の空洞は部屋分けがされていたのをふと思い出した。大きな岩の山の斜面には、ロッククライミングのための小さなフックが取り付けられていて、その所々に人一人通れるくらいの黒い穴があいているのだ。昼間はそこから子供たちが出這入りする。だけど、空が紫色から濃紺へと染まり出すこんな時間にそこを見てしまったなら、そこは。まるで魔界への入口のようにニールには見えた。そこからモンスターや幽霊が出て来て、食べられそうになったらどうしよう、なんて考える子供の自分と、どうせ居たって浮浪者だろう…と考える大人な自分が同時にいた。そんな自分にニールは一人くすくす笑って、ニールは公園の出口へと足を向かわせる。
今日の夕飯はなんだろう、寒いからシチューがいいな、と淡い期待をしながら、ニールはやんちゃに自動車侵入禁止のポールを片手で体を支えて後ろ足で跨ごうとしたその瞬間、家路を急ぐニールとは打って変わって、一人の少年が公園へと入ってきた。
季節は冬…にも関わらず、少年は白い薄手のシャツと、それと同じ生地のズボンという姿だった。まるで幽霊のようなその出で立ちにニールの背筋は一瞬凍る。少年はすれ違い様に軽く会釈をして、姿を岩山の遊具へと隠した。凍り付いたのは、少年が幽霊のような白い服を着て、まるで硝子のような銀色の瞳をこちらに向けたから。唯一、この辺りではあまり見ない軽く日焼けしたその褐色の肌だけが、生きている人間だという事を証明していた。
どうせ上着を遊具の中にでも置き忘れたんだろう…ニールはその幽霊のような少年を横目に、横断歩道を渡った。

「……ダンボール、やっぱり破られてるね」
岩山の遊具の中はもう暗闇だった。コンクリートの壁はひんやりと冷たく、無情に体温を奪って行く。スーパーで貰ったダンボールは、昼間にこの遊具で遊んでいた女の子たちにびりびりに破かれていた。これはまた貰えるから構わないけれど、やはり同じ店に行くのは少し堪え難い。もし監視カメラにIDチップ不明者として記録されていたら…と思うと、肝が冷えた。
少年…アレルヤは、浮浪者だ。海を越え国を越え、彼はただ安寧の地を探していた。一般に普及している非接触型IDチップは、その人間の全ての情報が記されているものだ。人々はそれにより電車やバスの料金を払い、移動する。IDチップと連動させた認証機と指紋により、それが家の鍵となり、車の鍵とさえなった。
つまりIDチップの無い人間は、人でありながら人としての権限を持っていないに等しい存在だった。
「うん…やっぱり海を渡ったのは、失敗だったね」
アレルヤは空に呟く。誰もいないその空間は、しんと静まり返っている。相手のいない会話が暗闇で続けられる。
昨日からアレルヤはこの岩山の遊具に寝泊まりしていた。程よく住宅街の中の、比較的大き目の公園は、逆に一目に付きやすく、不良たちの溜まり場には適さない。住宅街のど真ん中だから、大荷物の路上生活者にも不向きだった。
手荷物すら殆ど無い、着の身着のままの子供のアレルヤだから手に入れられた寝床だ。
ただし、昼間は他の子供たちに目が付かないように、他の場所へと行かなければなかったが。
「責めてないよ、僕だって渡ろうって言った。それに……うん、分かってる……」
アレルヤの会話の相手は、自分自身だった。
でもそれを咎める大人はいない。世界は二人で、二人が世界だったから。誰にも入り込め無い。隙間など、ありはしなかったのだから。



その日から、ニールはよくその幽霊の少年を見掛けるようになった。
朝霜が落ちる厳しい寒さの中、公園の小さな森で少年を見かけたのだ。
少年は儚げに微笑む。誰ともしれず、一人きりで。
不思議と視線の端で少年を追っていた。森の中で夕闇に溶ける白い服は、泥に汚れているのだ。
本格的な冬が始まろうとしているのにもかかわらず、少年は薄手のシャツとズボンばかりで…見ているニールの方が身震いをする程に。





↑多分ここから始まる予定だった……

おおまかなストーリーが↓かと



天隠すもの 3/6

傷付いてしまった事すら忘れてしまった。
汚れてしまった事すら忘れてしまった。
この森の中で。ぼくは毎夜あなたを待っている。
無音で時を刻み続ける広場の時計は無情にも約束の時間さえ過ぎて。
(さむい……)
カーキ色をした薄でのミリタリーコートだけでは、北欧の夜は越せない。あなたは来ない。遠くには黒い煙が立ち、火薬と硝煙の匂いが冷たい北風に乗って届いた。微かに血と肉の焼ける臭いも混ざっている。
(あっちにはいきたくない)
闇の帳は降りているのに、夜の底が赤く揺らめいている。
あなたの匂いの残るコートの襟に顔を埋める。
迎えに来るといった。一緒に暮らそうと言ってくれた。
子供のぼくでもわかる、夢物語だった。
だけどぼくは待っている。
あなたはどこにもいない。
嘘だった。
だからぼくはコートを脱ぎ捨てて、薄汚れた白い病院着のままで歩き出す。
海を渡る決意をした。
次は南へ行こう。少なくとも凍死はしない。
「……なんで、」
あなたの声にぼくの体は震える。
「俺を置いて行くんだよ…!」
背後から抱き上げられる。ぼくの視界は急激に変化して、その衝撃に耐えようとあなたの体を抱きしめ返した。
煤を被った体、微かに火傷を訴える赤い頬、裾の焼け焦げたコート。一瞬で分かった。
あなたがあの夜の裾の、悲劇の舞台に立っていたということ。

始原の地
あなたと出会ったのは、一月ほど前の事だった。
まだ冬も始まらない、

輝ける森
ぼくたちは森を抜けた。ひたすらに彼の後を追い掛ける。繋いだ手は痛いほど熱かった。

最果ての門
神への祈りを無くして。ぼくは彼に連れられるまま黒い衣装を纏わされる。隠れ眠るという行為の他で、初めて教会へと足を踏み入れた。

永久楽土
そこは天国だったのかもしれない。あらかたの荷物が運び出された箱庭のようなそこは、がらんどうだった。
白い部屋に大きなベッドが一つ、取り残されている。
そこでぼくは、昨日の夜。
あなたに抱かれた。

たまゆらの炎
毎日が一変した。あなたとまいにち手をつないで、外に出て、遊んで、買い物をして、キスをして。
子供の遊びだと、大人たちは笑っていた。
たしかにぼくは子供だけど、彼の隣に立っている時だけは大人になれた気さえした。
毎日白い部屋であなたに体を貪られる。
まだ、大人になりきれない体なのに。
彼の体は大人になろうと軋み、筋肉が発達して行く。


驕れる顎
いつか牙を剥いてしまうのか不安だった。


黄金の乙女たち
そして、少女たちは、彼のもとへと押しかけた。
蔑むような瞳でぼくを睨む。

千の夜
三年、一緒にいれたら。それは本当の愛になるのだろうか。

死せる太陽
やがて意識が遠のく。

竜の心臓

月蝕の迷い家
探しても、探しても、自分は何処にもいない。

真理の高み
「……行かなきゃ」
ぼくは決意した。空を超える決意を。まだ、戦わなくちゃいけなかったから。

禁断の展覧会


曙光の都
「なんで、俺を置いて行ったんだ?」
「……え?」
「忘れた?」
「忘れられるはず…」
無い。
ただあの時の無垢で儚い彼と、あなたを結び付けられなかった。
「まあ、そりゃ、そうか。お前にとって俺は、酷い人間だったろうな」
「なん……っ」
「でも俺は本気だった。いつだって、お前が傍にいてくれたら、それでよかったのに」
「次は俺が置いて行く番だ」
お前が俺を置いて一人戦場へ向かったように。
「嫌…ちが、違う、僕は!」
「今度は僕が迎えに行こうって!思ってたんだ…っ」
「もう遅い」
お前の気持ちなんて知った所でどうなる訳じゃねえ。
お前の胸に何が刻まれようと。
「僕だって愛してたんだよ…」
両親のベッドで、妹のドレスを着せられ。たとえ人形のように扱われたとしても。
彼が僕に何を映し影を見ていたとしても。
彼は僕が持ち得ない普通を与え、教えてくれた。
このまま彼と共に生きることが、幼き日の夢。
幸せな家庭を築きたいと言ったのは、彼。


20120901

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