君の逃げ場所
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アレルヤ・スミルノフ…18歳、高校生。受験真っ只中。セルゲイ・スミルノフの次男。中学生の時ディランディ家に厄介になり、家事やらを引き受けていた。ニールと一応体の関係はあったが、恋人という自覚は無い。まだ片思いと思い込んでいる節があり、昔のようにニールが触れて来ない(後述)事から成長してしまった自分ではもう無理だとも思っている。

ニール・ディランディ…28歳、会社員、未婚の父。アレルヤとは以前から親しい(と本人は思っている)仲。血の繋がらない大叔母(?)にあたるティエリアと刹那を引き取り育てる。高卒で必死に働いてい子育てしている為、若干枯れ気味。
三年も離れていて、アレルヤと付き合っているのか少々不安でいる。アレルヤが14(中3)の時、押し止める事も出来ず体の関係を持ってしまったせいか、アレルヤの高校入学と共に距離を取っていた。

ティエリア・ディランディ…6歳、小学生、ニールと血の繋がりの無い。本来はニールの外祖父(イオリア)の養子にあたる。

刹那・ディランディ…4歳
アレルヤがいた頃は0歳だったので覚えていない。が、なんとな愚痴が優しい人がいた、という事は覚えているらしい。

ディランディ家とスミルノフ家は昔マンションでお隣同士だった。
→今は双方引っ越しをしているが、ニールとアレルヤは(一応)交流を続けている。
四年前にアレルヤは学校にも行かず隣の部屋のディランディ家に入り浸っていたという過去がある。
※二人とも過去に好き同士であることは確認済み※
※しかし今現在の関係は改めて不明※

そんな現パロ…

※某ロク+子刹ティエまんがのオマージュですごめんなさい
※たった数コマの中学年アレルヤの出番に心奪われました\(^o^)/
※セルゲイさんとニールは主夫仲間ですキリッ

「ーーまた親父さんと何かあった?」

コトリ、とテーブルの上に、湯気のあがるマグが置かれた。
突然の来訪者は無言で白いマグを手に取る。
久しぶりに顔を見た、とニールは思った。
最後に会ったのはこの子が高校に上がった時以来で、凡そ二年ぶりくらいになる。
頭一つ分くらい小さかった身長は、既に追い越されていた。

「あのね……進路の事で、悩んでて」

来訪者……アレルヤは、こくりと温かいミルクを口に運ぶ。
マグは熱いくらいだけれど、その中の白い液体は湯気をくゆらせて丁度いい温度になっていた。
一息吐いて、ニールの方を向いて話し出した。

「進路……って、お前の高校エスカレータ式だろ?」
「そうだけど……外部の大学に行きたくて……」
「ははあ、それでまた親父さんと争ってるのか」
「争ってないよ!……その、折角エスカレータ式なのに、他の大学に行くの、申し訳無いなあって……」

アレルヤはマグを机の上に置いて、気落ちするように肩を落とす。
その様子は昔のアレルヤと変わらない仕草で、ニールは顔を綻ばせた。
見掛けは大人に成長しても、中身はまだまだ心が不安定なアレルヤのままみたいでニールには懐かしく思える。
反抗期はどうやらちゃんと卒業出来ているみたいで安心したが、まだ少し幼いようなあどけなさというか、性格が波打つようだった。

「……やりたい事、あるのか?」

ニールの言葉は、アレルヤの意思を確認するように低く
確かに発せられた。
四年前もそうしてアレルヤを好きなようにさせてくれていた。些か放任主義なようも気がするが、当時のアレルヤにとってそれはとても心地よかったのを思い出す。
ニールと、アレルヤの父が相談し、いくつかの約束を守る事を条件に、ニールの家で中学時代をアレルヤは過ごしたのだ。

「……どうだろう。将来、なりたいもの、やりたい仕事がある訳じゃない」
「じゃあどうして?」
「家を出たい……のかな」
「安直だなあ」

当時の約束ごとは三つだった。
≪夕食は必ず家で食べること≫≪出掛ける時は何時に帰るか伝えること≫≪ニールさんのお手伝いをすること≫
アレルヤはそれをニールの家で守った。
高校生になった今でも、無意識的にその約束を守っている。
三つ目の約束は離れている今は出来ないが、別段その約束事が苦痛という訳でも無く、塾の関係で時間はズレさえするが夕食は家で食べるし、かつてのように学校に通わずに家に篭ってしまうような理由は無い。
今日だって何時に帰るかを伝えてニールの家にアレルヤは来ていた。

「僕が家を出たら、マリーとソーマが一人部屋になれるし…」
「ふうん?で、どこの大学に行きたいんだ?」
「××大」
「なんだ、ここから近いじゃ……その荷物は、見学に行った帰りか」

ちゃっかりものめ、と額を小突かれた。
そのニールの仕草がアレルヤの中の、漠然とした不安を和らげる。
彼の腕の中の安心感をアレルヤは既に知っていた。
何度か抱かれたその胸の内が酷く懐かしい。
もう三年も触れ合っていないのだと、またアレルヤの中の不安の種が芽吹き始める。
そんな単純な事でこんなにも揺らぐ。

「でも一人暮らしだとお金が……」
「高校、バイト禁止だっけ」
「母さんの手伝いしてたから、」

アレルヤの言葉にニールは腕を組み、ふむと思案する。

「じゃあ、また一緒に住む?」

考え込んだと思えば、ニールは簡単に言ってくれた。
その余りにも安直な、というか何も考えさせる余裕も無い程あっさりと言ってくれるものだから、アレルヤは目をまんまる開いて、ぼうっとニールを見た。
そのアレルヤの様子にニールはにんまりと口角を上げ笑みを浮かべる。

「ティエリアもまたアレルヤと暮らせるって聞いたら喜ぶと思うな」
「でも……そんな……」
「大学が近いんだろ?お金溜まったら一人暮らし始めればいいし、それまでここに住めばいいさ」
「……いいの?」
「ああ、約束ごとも無し。……まあ何時に帰ってくるかぐらいは、言って欲しいけど」
「あ、ありがとう」
「昔もこんな風だったなあ……」

ニールのしみじみとした声に、アレルヤは無言で視線を伏せる。
昔というのは、かつてこの家に厄介になった時の事だ。
もう住んでいる家はお互い違う。
同じ間取りだった部屋は場所を変え見知らぬ形を作り、馴染んだソファやテーブルが、カーテンが新しく部屋を再構成している。
使い慣れた筈のフライパンは知らないシンクの引き戸に仕舞われ、あの頃に買い与えられた箸や茶碗が、いつでも使ってくれと綺麗に並べられた姿が食器棚から見えた。

「ここがお前の逃げ場所になるなら、俺はそれでも構わない」
「それ、昔も言ってくれました」
「そうだっけ?」

じんわりと、アレルヤの目頭が熱くなっていく。
ここにはまだ自分の居場所が残っているような気がして、切なくなる。
今度は自分自身の意思で、ここを自分の居場所に出来るような気さえした。

「……あのね、ニール」
「なんだ?」
「昔見た夢が、また見られる気がするんだ」
「夢?」
「そう、夢。漠然とした未来だけど……」

昔、この家が唯一の安らぎだった時の夢。
このままずっとニールと一緒にいられると思っていた。
ただ漠然とそう思った。
お節介な父が気に入った隣人は同じくお節介な性分の人間で、最初は≪合わない≫と思った程だったのに。
学校に行けなくなって父の運転する車の後ろに乗っている自分に何も言わず、普通に接してくれたのが嬉しかったのだろうか。
車の助手席で楽しそうに引き取った子供の話をする彼に興味を持った。
いつしか隣の家に居着くようになり、彼の代わりに洗濯物を取り込んだり、保育園にお迎えに行ったり、夕食を作るようになって。


↓ここから暗い

「僕は、あの頃みたいに、また貴方と一緒にいたいんです」
「ばーか、そういうのはな、好きな子に言う台詞だぜ?」

ニールは溜息のように言う。
それにアレルヤはびくりと体を震わせ、夢を否定されたようや気持ちになる。
ここにまた居場所を作れても、彼の腕の中にはもう戻れないのかもしれない。
初めて体を重ねた時のような、今にも折れてしまいそうな肉体はもう面影すら残していない。
洗面台と洗濯機で酷く狭い脱衣所で息を潜め、獣のように体を折り曲げられ、ただ歓喜した。
こんなにも好いていて、焦がれているのに、彼の心にはもう自分の入る隙間すら無いなんて。

「でも……ぼくは多分、一生貴方の事が好きなんです」
「そこは多分なんて言うなよ……」


「今まで会えなかったのは、……僕の身長が伸びてしまったからで……」
「そんな理由だったのかよ」
「もし≪一緒に暮らそう≫って言われなかったら、貴方に嫌われたって思い込む所でした」
「……もしかして、俺の事試した?」
「はい、ちょっと」
「はーっ…お前は最初からそのつもりで……」

ふふ、とアレルヤはニールに微笑

「貴方と一緒に暮らす事が、僕の夢なんですから」

もう逃げ場所じゃないです、ちゃんと両親に言って……貴方と一緒に、暮らします。

「本当に、こんな子持ちの、どこがいいんだか……」






「でも……ぼくは多分、一生貴方の事が好きなんです」
「そこは多分なんて言うなよ……」

またニールが溜息のように言った。
ではどうすればいいのだろうか。
一緒にいたいと言えば、他の人に言えと言う。
多分一生好きと言えば、多分なんて付けるなと言う。
曖昧なニールの言葉にふつふつと怒りが込み上げた。

「じゃあなんで…一緒に住もうだなんて言ってくれるの…」
「それは…ここがお前の逃げ場所に」
「」

もう逃げ場所じゃないです、ちゃんと両親に言って……貴方と一緒に、暮らします。

「本当に、こんな子持ちの、どこがいいんだか……」



12.04.30

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