2015年2月27日
なんとなく目に付いたのは、ふせんでもしおりでもどちらとも取れる、小さなインコの紙の束だった。
一般家庭で飼われているような、黄色や青、白、珍しいものではピンク色のもののもあった。
もっとも色鮮やかなそれと、少し地味めのもの、二つを手に取ってレジに並ぶ。
赤とオレンジが混ざり極楽鳥のようになっている派手なものと、濃緑一色のそれをプレゼント用に包装してもらい、そのまま真っ直ぐホテルへと戻った。



――忘れたころに思い出すなんてよくあることで、普段は滅多に使わないカバンの奥底から出て来たプレゼントを、どうしようかと悩んだ。
お前がそれを貰ってくれるなど、思っていない。
だけど少しだけ馳せる想いを膨らませて、俺は潔く散ろうとそれを手に取り、走った。
「おーい、アレルヤいるか?」
アレルヤの自室の前で声を上げる。この時間帯なら自室で待機か、トレーニングルームで訓練中だろう。
五分五分の確率かな、と考えた。
「はい?どうしたの?」
まず一つ、自分で賭けた賭けに勝つ。
部屋の中からいつも通りの少し高く、抜けた声が帰ってくるのと同時に、目の前の扉は開いた。
「入ってもいいか?」
「ええ、どうぞ」
定型の言葉を交わして、その縄張りへと一歩足を踏み入れる。
「この間……っても大分前か。地上で買ったんだ。二つも要らないと思って。」
もしよければ、貴方にあげますよ。と脳内で皮肉る。
物欲の無いアレルヤは、理由のないプレゼントを受け取らないと知っている。
「……?」
しかしアレルヤは、どこか不思議そうに俺の手の上にあるインコと、俺の目を交互に見やった。
「要らないから、貰ってくれよ」
「ぼくが?」
「お前以外の誰がいんだよ」
このトレミーの中で、紙媒体の本を読む奴は俺とお前くらいだ、と言葉を続けた。
「……」
「ねえ、どっちがいい?」
依然沈黙を続けるアレルヤに催促の言葉を投げつけた。
「あ……ええと、じゃあ、こっちで」
手に取ったのは嬉しくも緑の方。
「じゃあ、それ使ってくれよな」
俺は極彩オレンジを潰れないよう握り締めて、アレルヤの部屋を後にした。
本に挟まれるオレンジ。それを見るだけでなんだか心が踊る。
何故アレルヤがそれを取ったのか分からないけれど、今、俺が貸した本に、俺のあげたしおりが挟まれている。
その本が返って来れば、今度はアレルヤの色のしおりが、そこへ挟まれるのだ。ああ、色を見ているだけでこんなにも胸が苦しくなるなんて!
つがいのようなインコに想いを馳せて、ただ貸し借りする本に満足してしまいそうになる。
だけどいつまでもそのままでなんていられなくて、物足りなくなってしまって、次に貸す予定の本の間にふせんを一枚ぺろりと挟み込んでみた。
ふせんに【好きすぎる】と書く。何が、とはあえて記さずに、ただ好きだと。
2,3日後、思いのほか貸した本が早く帰って来た。
返却しに来たアレルヤの顔がほんのすこし紅潮しているように見えたのは、きっと目の錯覚なのだろうか。
しかしその錯覚ですら、本当のように思えてしまった。なんたって俺は、成層圏の向こう側まで狙い撃つ男なのだ。
返された本をたわむれにぱらりとめくって、それを見た瞬間心臓が跳ね上がった。
同じページに、≪スキ≫の文字が書かれた緑のインコがいたからだ。
だって、何がとか書いていない。
ページはランダムに選んだ場所だったから、もしかしたら本の内容の事だと思われたかもしれないので、そのページの前後を慌てて読み返す。
今すぐ何が好きなのか問いただしたい、その衝動に駆られる。
もしそれが俺の想っているものなら、どれだけ今日が素晴らしい日になるんだろう。
『あなたのことです』なんて言われてしまったら、ああ!
耐え切れず走り出して、立ち去ろうとしていたアレルヤの肩を掴んだ。
「なにが、好きだった?」
「えっ……」
振り返ったアレルヤの髪がぱらり、と浮き揺れた。
驚いた視線が返ってくる。
それは見慣れた穏やかな銀色だった。
それは見慣れない貫かれるような金色だった。
「俺のことだって言ってくれよ」
返事など聞かず、そのままアレルヤの体を抱き締めた。
「……っなんで、緑、選んだんだよ……?」
アレルヤがオレンジのインコを選んだって、きっと俺は好きだとメッセージを送っただろう。
それが遅いか早いかの違いだ。
アレルヤがどっちを選んでも、俺は、きっとアレルヤにプレゼントを買った。
それがどんなものになるかの違いだった。
きっと、受け取ってくれないと思っていたから。
「……たんじょうび、だったから……」
ほんの少しだけ緩んだ腕の中で、アレルヤの手が軽く俺の胸に触れる。
心臓の音が伝わってしまいそうなほどだった。
「誕生日、だったから、」
アレルヤの頬が赤くなっている。
今度は錯覚などではないようで、ほんとうに耳まで真っ赤になっていた。

「あなたのいろが、ほしかった」

これ以上無いほどの、愛の告白のように思えてしまって。
逃してしまわないよう、またぎゅっと抱き締める。

「すきだ、アレルヤ、」

もっときみに、いろんなものを与えてあげたい。
俺から与えられるもの、全て。

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