十秒でいいから愛させて
※23話ネタ
その雑音を、僕の声が通り過ぎている筈もない。
貴方が自分を愛さないなら、僕が愛してあげたかったのに。
【10秒でいいから愛させて】
言えなかったことがある。あの一瞬、一瞬でよかったのにどうして?
言えなかった自分が憎い。憎くて憎くて悔しくて、後悔だけがただただ脳内に渦巻いていた。
話は数時間ほど前に遡る。
それはちょうど出撃の時で、彼の出撃は誰もが止めた。彼の中の引き金を引いたのは、誰だったか。
もう今では聞く術すら持たない。
「……本当にいいのですか」
彼の機体に音声回線を繋ぐ。命を引き換えにする覚悟を、その答えだけを求めた。僕は止められないと知っていたからだ。
理由を聞ける立場ではないと、知っていたからだ。
『お前さんも戻れと言うのか?』
彼は僕が困る答えを、質問で返した。ここで戻れと言っても、戻らないくせに。何故僕を困らせるのだろう?
今では、その理由さえ聞けない。
「いえ、そういう意味じゃなくて」
『じゃあ他に、何か言いたいことがある?』
いきなり核心をつく。びく、と体が震えた。通信からフェルトの声が聞こえ、コックピットの中まで出撃のブザーが鳴り響いた。
「I have control. キュリオス、迎撃行動に出る」
トレミーから射出すると、そこには満点の星々。その中に、赤く輝く粒子を放つ疑似GNドライヴを乗せた、モビルスーツ群がこちらに飛来して来るのが見えた。
「……たぶん、僕は貴方が困ることを言います」
『いいぞ、言ってみろ』
彼を乗せたデュナメスは、まだトレミーの中で眠っている。まるで、最後のように、彼は言った。そして僕も囁くように言葉を紡いだ。
【10秒でいいです。あなたを愛させて下さい】
目の前に現れたGN-Xを攻撃する。向こうから出された赤い閃光がキュリオスの機体を掠めた。
ガガ、ガッ、ガタッ ザッザアァッザザァッザザッザッ……――
多分、いや確実にそのノイズで隠れただろう。
(言えるわけ、無いでしょう)
愛してるなんて、卑怯者の僕には。
(気高すぎて 遠すぎて)
彼の機体が、宙を舞った。それが最後の会話だった。その、たった2、3の言葉だけで。
僕はただ、平常を装ってるしか無かった。あのティエリアさえ、声を荒らげ刹那を攻めている。僕の体から声に出るのは、戦闘のこと、機体のこと、そればかり。
僕はただ、彼に体を明渡すことしか出来なかった。
生きたいと彼が叫んでいる。
死にたいと僕は嘆く。
彼は、彼を、彼が。
そしてまた、彼も死んでいった。
そして僕は、またあの暗闇へと戻って行った。
08/12/03 UP
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