ドSな彼氏の制し方


ロックオンのグーが決まった。
ほっぺとボディのダブルクローで、刹那の身体が一瞬空に舞う。
「…まだ、お仕置きが足りないか」
ドスの効いた声を聞くのはこれで何度目かは解らないが、今回ばかりはやばいとティエリアとアレルヤが二人の間合いに入る。
「刹那、今日はお前が悪い!」
「ロックオン、殴るのはよくないよ、ちゃんと話合……」
二人は背中を合わせて仲裁するが、ティエリアは刹那の首根っこを掴んで、アレルヤの脇から刹那を突き出そうとした。
「ちょっ、ティエリア!」
出てきた刹那を殴らんと腕を振り上げるロックオンをなんとかアレルヤは押さえ込むが、完全にブチキレたロックオンはアレルヤの妨害さえ振り払らおうとする。
「アレルヤ!離せ!いくら海より深い俺の優しさだって今日ばかりは堪忍袋の尾が切れてる!」
「もうそれくらい解ってるよ!…ッ取り敢えず刹那を連れて逃げてティエリア一時間くらいーっ!!!!」
あのアレルヤが逃げて、というくらい、今日はヤバイのだ。
必死にロックオンを羽交い絞めするアレルヤにそう叫ばれて、ティエリアはびくりと体を震わせたあと、突き出そうとした刹那を引き連れ脱兎を計った。
(何か策があると信じている…アレルヤ・ハプティズム…!)
アレルヤの無事を祈るだけ祈り、ティエリアは逃げた場所で刹那のほっぺに湿布を貼ってあげた。

【一時間後】
恐る恐る刹那とティエリアは部屋に戻る。
ロックオンは静かに食卓の椅子に座り、コーヒーを啜っていた。
帰宅した二人に気付いて、安堵したように息を吐き立ち上がって二人に近づく。
「よかった、もう帰ってこないかと思ったぜ…!」
その表情はいつもと変わらない微笑で、先程とは打って変わったロックオンの様子に刹那とティエリアはほっと息を衝いた。
「刹那、さっきはごめんな。ちょっと定期連絡が遅れたり、集合に間に合わなかったり、単独行動が激しかったり、新聞が部屋中に溜まってるだとか、キッチンがぐちゃぐちゃで物体Xが量産されてたりとか、ガンプラ買い溜めし過ぎだとか、風呂場がなんか得体の知れない臭いで充満してるだとか、廊下も部屋もが魔界だったとか、そんな事で殴ったりして…」
愚痴ぐちとロックオンは言葉を連ねる。
小さな一つ一つが積み重なって、今回の爆発に繋がったようだった。
「いや…すまないロックオン…」
刹那は顔面蒼白といった様子で口を噤むしか出来なかった。
「部屋の掃除は全部俺がしたけど
次は無いと思えよ?
いくらアレルヤが優しいからって、な…」
やっぱりまだ怒っていた。
ピカピカになった部屋のぶん、ロックオンの表情の暗さが怖い。
眼力だけで人を殺せそうな程今日のロックオンは怖い。
「そ、そういえばアレルヤは何処に?」
ティエリアは話題変換と自分達を逃がしてくれたアレルヤの安否を伺った。
「ああ、アレルヤ?……何処だと思う?」
普段着のジャケットのポケットに手を入れて、にやりと笑うロックオン。
ポケットの中で何かを触った後、すぐ隣の部屋で物音がする。
「…ロックオン?アレルヤはここなのか?」
この部屋か?とティエリアは襖を開けようと手を伸ばした。
「その部屋入らないほうがいいぞー。アレルヤがまだ"途中"だから」
((何が…!?))
恐怖で冷や汗を流しながら、二人は襖から後ず去る。
「ぁが…痛ッ痛ぃいぃあぁあッッ!!!!!」
その途端襖を通り抜けて、アレルヤの叫び声が耳を劈く。
ロックオンは溜息を吐いた後襖を数十センチ開けて、その裂きにある暗闇に呟いた。
「アレルヤ…刹那とティエリアが帰ってきたからって、終わったなんて思うんじゃねーぞ…?」
本日三度目の低く唸る声だった。
助けたくても助けられない薄い壁が二人の間にはあった。
「お仕置き中だから、今日は俺が夕飯作るなー」
振り返ったロックオンの満面の微笑みは、まるで悪魔か死神のようなものだった。

【翌日】
「おはよー」
昨日の叫び声とは打って変わって、いつもと同じ笑顔でアレルヤはキッチンに立っていた。
いつもと違うのは長袖を着ていることぐらいだ。
「アレルヤ?大丈夫なのか?」
「うん?全然元気だよ?」
どうかしたの、とティエリアにコーヒーを出すアレルヤの手首には縄模様の鬱血痕が残っていた。
それを見たティエリアは真っ青になり、コーヒーなど飲めたものじゃないと膝を抱える。
「おはよーさーん」
くぁあ、と欠伸をして襖を開けて出てきたのはロックオンだ。
こちらも珍しく長袖のハイネックを着ている。
「お行儀悪いぞティエリア」
椅子の上で膝を抱えるティエリアに、足を下ろしなさいと嗜めるロックオンは普段どおりだ。
しかしアレルヤからコーヒーを受け取るロックオンの首筋には、噛跡とうっすら赤く染まる、手形が残っていた。
「万死……」
この二人だけは絶対に怒らせない、とティエリアは固く誓った。


11.12/08 UP

2011年02月19日
のらしい。
多分ムラムラしてた。

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