逃避行
メールは突然なもので。
2011/03/01,09:37
From:Neil
To:Allelujah
Subject:無題
今日11時。東京駅の新幹線の改札で待ってる。

 出張で一週間大阪まで出かけている彼からの突然のメールだった。
 目覚めの余韻の中で、今頃リニア新幹線で彼は眠っているんだろうなと考えている時だった。別に出迎えに行く気は無かった。平日の真昼間だからどうせ着いてすぐ出社だろうし、会える時間など無いと思っていたから。
 けれど彼からのそんな催促のメールが来てしまっては仕方が無い。言い訳がましく、ごろごろと転寝していた布団を這い出て適当にジーンズを穿く。携帯と一応財布、バイクの鍵をコートのポケットに突っ込んで、そのまま階段を降りた。
「おはよう」
 キッチンリビングと繋がっている階段を降りれば、母が掃除を終えた時間帯だった。
紅茶とせんべいという妙な組み合わせで午前中のティータイムを楽しむ母を尻目にパンをトースターに突っ込む。
「今日は学校?」
「ううん友達と遊びに」
「あら、彼女かしら」
「違うよ…母さんはそういう話が好きだね」
 彼女ではなく、彼氏だ。
一応恋人がいるとは家族に公言しているのだが、自分には勿体無いくらいの美人だと思わず自慢したくなってしまう程、彼は綺麗で、それでいて優しく頼もしい。
 多分うちの家族では僕の恋人に対するハードルはかなり高くなっているだろう。
「だってアレちゃん、ハレちゃんと違っていっちども彼女連れてきた事無いじゃない」
「それは…。まだ、そこまであの人と進展してる訳じゃないし……」
「アレちゃんは引っ込み思案だものね」
友達すら連れてきたことがない、と母は濃いミルクティー色のウェーブヘアを揺らして笑った。
「…もう大学生なんだから、そう呼ぶの止めてよ…」
「うふふ、やーよ。アレちゃんとハレちゃん以外誰も呼ばせてくれないもの」
母のように茶髪だったら良かった、と昔から思っていたぶん、母の微笑は少女のように華やかだ。
だから自分の悪いところを突かれた分余計に腹が立つ。
「昔は兄さんもマリーもソーマも皆ちゃん付けだったのにね」
「子供たちが巣立っていくのは悲しいわぁ〜」
チーンと軽快な音を立てて焼きあがったパンが飛び出してきた。
ピーナッツクリームだけ塗って、母が淹れてくれた紅茶と一緒に流し込む。
「それじゃ、行ってきます!」
少々手抜きだが、時間が無いと急ぐようにキッチンを出ようとした。
「アレちゃんアレちゃん」
「なあに、母さん!」
「階段降りてるとき、すごい楽しそうだったのよ。今日デートなんでしょ?頑張ってらっしゃい!」
「…!」
恥ずかしさで玄関を飛び出て、靴の踵を踏んだままバイクを走らせる。
赤くなる顔のせいでバイザーが曇って、もうどうしようもなくなってしまった。



「ア・レ・ル・ヤー!こっちこっち!」
きょろきょろと改札口であたりを見回していると、遠くで手を振るスーツ姿の青年…ニールが、ぴょんぴょんと飛び跳ねて居場所を主張した。
「ニール!おかえりなさ…いっ?!」
急いでそこに駆け寄り、久し振りのその温もりを感じようと手を伸ばそうとすると、そのまま掴まれて改札の向こう側へ引っ張られる。
「急いでくれ!時間ギリギリのしか取れなかったんだ!!」
「…っぇえええええ???」
握り締めた手を引っ張られ、転倒しそうになりながらも長い階段を駆け上る。
人々の網を掻き分けて、閉まる直前のリニアへ飛び乗った。
「…はーっ、ま、間に合った…」
荒い息遣いのままニールはその場に座り込む。
「何なの一体…何処に行くの?…ッニール?!」
腰を曲げてニールの顔を覗き込もうとすると、そのまま頭をホールドされてキス。
「んん…っぷはぁっ!急にするなんて反則…」
「誕生日おめでとう、アレルヤ!」
抱き締められて、そしてまたキスをされた。
さっきの早急なものとは違い、見詰め合ったまま視線で自由を奪われる。
唇を食まれ、柔く舌でなぞられる。
ちゅ、ちゅっ、と軽いリップ音と飛び乗りを注意する放送がデッキに鳴り響いた。



手を引かれて車内を突き進む。
適当に見付けた自由席に身体を預けた。
ゴォゴォとスピードを安定させて高速で突き進むリニアの中は温かい空気が流れている。
平日の昼間だからだろうか、サラリーマンが乗車数の大半を占めていて眠り扱けている。
「…日帰り?」
リニアにまで乗って何処へ行くのか理解もせずに連れてこられたアレルヤは丸腰と言っても同然だ。
唯一の救いは財布と携帯を持ってるということだけ。
ジーパンにTシャツ、パーカーというアレルヤのカジュアルな服装とは反して、ニールはアタッシュケースをぶら下げて、いかにも出張帰りですといわんばかりのスーツ姿だ。
「いいや泊まり」
ニカッと歯を見せてニールはにんまりとする。
「二泊三日、東北の有名温泉街でしっぽり予定」
だからお前を拉致して来たんだ、というニールにアレルヤはぎょっとした。
もしかして、あのメールから何もかも仕組まれた事だったのではないのかと勘ぐる。
「明日バイトあるんですけど そもそも着替えとか無いんですけど」
「休め。 あと着替えくらいなら俺が貸してやる」
「……はぁ」
高慢と言わざるを得ないニールの発言に、アレルヤは溜息ごとがっくりと肩を落とした。
ニールは長男としての性分でか、わがままの言い方を知らないようで、アレルヤはよく振り回されていた。
アレルヤはその度ニールの普段の態度の差に落胆するのだが、次第にそのギャップがいとおしく感じるようになって来る。
彼に引っ掻き回されない人生だなんて考えられないと思うほど、ニールにアレルヤはどっぷりだった。
ニールの不器用な甘え方がアレルヤの存在意義を埋める。
抱き締めたら、それを超える大きな愛が帰ってくる。
もちろん抱き締められたら、たくさんの愛を返すのが二人の決まりごとのようだった。
「ちょっと寝ててもいいか?夜あんまり眠れなかったんだ」
お前からのメールが楽しみでな、と言われた。
「…僕のせいなの?」
「嘘、ごめん。お前がいなくて寂しかっただけ」
肩に頭を乗せて謝られる。
こうしていつも、誤魔化されているような気持ちになるのだ。
「仕方ないひと……」
その甘栗色の髪に頬を埋めた。
僕の傍で、安心して眠ってくれるのなら、それ以上の幸福はないのだけれど。
「…誕生日、いっしょに祝えなくて、ごめんな…」
そう言い残してニールは眠りに付く。
よっぽど忙しかったのだろうか、その眠りはすぐに深いものになった。
終点までに起きてくれればいいのだが、とアレルヤは思う。
「別に気にしてなんか無いのに」
それよりも、まっさきに自分に会いに来てくれた事が何より嬉しかったのは、言えはしなかった。
誰よりも、何よりも、自分を選んでくれたのが嬉しかったのだから、自分の誕生日なんて二の次だ。
(僕としては、三日後の貴方の誕生日の方が、よっぽど大事だと思うんだけどな…)
もちろんこれも、口には出せなかった。
恥ずかしかったから。

*****

ただ恥ずかしかった。
湯当たりだとか、言い訳をしたい。
出来るならこの窓の外でしけている海にダイブして、冷たさで心臓を止めてしまいたい。
視線だけで唇をまた重ねてしまった。
ゆっくりと浴衣と帯の間に手を差し込まれる。
引き戸一枚で廊下と区切られている老舗旅館の一室での出来事だ。

離れの小さな露天風呂をレンタルしていた。
いわゆる、貸切風呂というやつだ。
部屋付きの豪勢なものとは違い、小さく景色もあまりよくは無い。
時間制限付きのその場所で、温泉成分でぬるつく体をくねらす。
お互いの性欲を掻き立てるように、指先だけで肌をなぞった。
湯で濡れて最早隠す意味を持たないタオルを解いた。
ぱしゃり、と音を立ててそれは沈んでいく。
軽く股を拓いて、湯船の枠の岩に腰掛ける。
冬の海の、冷たい風が身体を突き刺す。
だけど性的に興奮している脳みそはそれを感知しない。
いくら景色の悪い露天風呂だからって、外だというだけで緊張感が増す。
緊張は興奮へと移り変わり、挑発するようにまた足を捩った。
「……外して」
眼を丸くして、全裸の僕を見詰めていた彼を促がす。
お湯越しに彼の性器が露出した。
陰茎は立ち上がっていない。
だけど気分は異様なほど舞い上がっている。
足だけ湯につけた状態で身体を擦り付けた。
「…これは、ハイレベル過ぎる」
「何言ってるの…」
絶対に勃起してはいけませんゲーム的な。
普段であれば彼に顔を湯に沈められる勢いで犯されている。
今のところ優勢なのは僕。
彼は片手で顔を隠して、僕を見ないように視線を外した。
「よそ見しないで…」
「無理、見たら絶対勃つ。お前エロ過ぎ…」
彼の手を離そうと手首を掴む。
掴んだその手を胸に擦り付けて、ぬるぬると滑らす。
「…僕の負けだ。」
「へ…?あ、お前…ッ」
「勝って、恥かかせてあげようと思ったのに…たっちゃった」
「……イカせてやろーか?」
「ダメ。お湯汚しちゃうもの」
ざぱり、と湯船から出て脇に備え付けてあるシャワーで冷水を被る。
ほんの少し起ち上がっただけの陰茎は、すぐに熱を奪われて萎え、横たわった。
もう一度体を温めようと湯船に戻る。
今度は肩を並べて、深く。
沈んだタオルを広い湯船の中で巻き直して、肩まで沈んだ。
「なんか、」
「何」
「えっちな事しなくても、よかったかも…って今思った…」
「なんで」
「だって、してもしなくても、ドキドキするなら一緒かなあ…って…」
言っててどんどん顔に熱が集まっていくのがわかった。
ここ一週間ずっとモヤモヤした気持ちが今さっき爆発したようで、顔が真っ赤になるのと同時に頭の中が冴えていく。
お昼に東京駅で会った時、たしかに何処かへ連れられる期待はしていた。
ホテルでも、彼の部屋でも。
そのまま食事に出かけても良かったし、デートしたって構わなかった。
だけど手を引っ張られて、急いで新幹線に乗って、着いたのは本州最北の地・青森だ。
温泉街。
着いて真っ先に、何をするでもなく露天温泉に直行とは、流石に恋人として黙ってはいられなかった。
戯れのように駈け乗った新幹線のデッキで祝われた誕生日だって、もう二日も過ぎている。
「ドキドキしててくれてたのか?」
一週間も。
電話もメールもしていた。
いつもどおりだ。
違うのは彼が関西まで出張に行ってたという事。
そっと肩を抱かれる。
そのまま頬にリップ音。
女をあやす様な動作のそれを、僕は甘んじて受け入れた。
今日はせいいっぱいわがままを言ってやろうか。
「…するなら、いてもいなくても、一緒?」
これもまた精一杯の皮肉だ。
ドキドキするなら、傍にいてもいなくても一緒でしょう。
「違うなぁ」
こつり、とおでことおでこがぶつけられる。
「ふふふっ」
そう言ってくれるのを待っていた。
彼ならこの重いアイロニーを甘い睦言に変えてくれる。
皮肉が通じないのだから、僕の陰鬱な言葉も意味が無い。
そっと腰に腕を伸ばされる。
湯船の中だから身体は簡単に浮いて、彼の胸の内へと引き込まれた。
「かーわいいなぁ…」
ぎゅ、っと抱き締められ、首筋に顔を埋められる。
濡れた髪が張り付いたり剥がれたりして、少しくすぐったい。
「かわいくないです…」
早速自分の言った言葉と行動に嫌気が差していた頃だ。
ああどうしてあんな事言っちゃったんだろう、あんな恥ずかしい事をしてしまったんだろうと自責の念で自分を殺す。
「いーや可愛い。俺のこと思ってえっちな事しちゃうお前も、俺がいなくて泣いちゃうお前も、全部ぜんぶ可愛い」
「なっ…してない!し、泣いてない!」
「えー?さっきあんだけ見せ付けてたのに?」
「違、それは…ッ」
「違わない。ようは寂しかったって事で解決」
唇を鎖骨の下に埋めて、掌は腰をするりと滑り降りて太腿を撫でる。
「要約し過ぎ、んん、」
「思い込みって大切だろ?」
好きだから全てがいとおしく映るのだと彼は笑った。
「寂しいのは俺も。寂しくて、布団が冷たくて、部屋は暗くて、美味しいご飯も無くて、お前がいなくて」
この一週間抜け殻みたいだった、とはにかみながら言う。
「電話したり、メールしたり、…一週間会えないなんてざらだったのに、なんか無性に寂しかったんだよ」
「どうやって次笑顔で会えるかな、とか、誕生日一緒に祝えなかった埋め合わせどうしよう、とか、もし帰ってもすぐ会えなかったらどうしようとか、いっぱい考えて、早く会いたくて仕方なかった」
「わ、あ、ああああ…っ」
顔を押さえる。
何をいっているんだ、この人は、真顔で、そんな、
嬉しくて爆死出来そうだ。
「だから……お前のしようとしてくれる事、言わんとすること、全部が今の俺には至上の幸福ってわけで」
「今ここじゃ出来ないなーって事が、最大の残念」
チリン、と鈴が鳴る。
貸切の時間はもう終わりだ。
「部屋でなら、ちょっとは出来るかな…?」
ちゅっ、ちゅっとわざとリップ音のきいたキスが唇に降り注いだ。

*****

時間は戻り、現在。
新幹線でのデッキといい、この個室の踏込といい、彼はこういった狭い空間の方が、興奮しやすいのかと考える。
「ん、んん…!」
襖に押さえつけられて、外れてしまいそうでずるずると床に落ちる。
吐息が近い。
はぁ、はぁ、と荒い息が耳に掛かって、こそばゆい。
サイズの合わない浴衣は着崩れていく。
やっぱり一番最初に、つんつるてんのこの浴衣を一番大きなサイズに取り替えて貰えばよかったと後悔した。
ずるりと彼は浴衣の裾をひっぱって、下着の中から自身を取り出す。
「や、ちょ、待ってっ」
「一番最初に誘ったのは、お前だろ…?」
耳元で低く唸られる。
「じか、じかん、今、何時!?」
「え?今?六時ちょい、過ぎ…あ…?」
浴衣の肌蹴た胸にしゃぶりつく彼が口を離さずに腕時計を確認する。
「……ご飯、6時半にって言ってたよね…?」
チェックインした時に訪ねられた夕食の配膳時間を思い出す。
しまった、といった顔で彼は上半身を起こした。
僕の太腿の間で主張を続ける彼の陰茎は萎えることを知らず、彼の心情とはうらはらにいきり立つ。
「…………………どうしよう?」
困ったなという表情で、彼は愛撫を続ける。
ゆるゆると太腿を撫でながらまだ僕の胸元を舐めるのを止めない。
「どうしよう、って、どうしようも無…あァッ」
「もう俺、お前の中にいれるつもりでいたんだけど」
太腿を撫でていた掌が背後に回され、いつも彼を受け入れている場所に添えられた。
ゆっくりと揉みしだきマッサージをするようなその動きを続けていた指先が、とんとん、と入り口を突付く。
「やだ、ダメぇ……仲居さん、来たら…」
恥ずかしくて死ぬ、と訴える。
こんな一畳にも満たない狭い空間で腰を折り曲げられ、足を押し開かれ、同じ体躯の男に尻穴を犯されている所を誰かに見られるなんて、
想像しただけで身体の芯が冷えた。
顔にはかっと血が集まる。
「じゃあ、恥ずかしいのは俺でいいから…イカせて…」
襟刳りを握っていた手を取られる。
股の間にひっぱられて、彼の陰茎を撫でさせられた。
熱っぽい声と吐息が耳朶を掠める。
指先で亀頭を一撫する。
どうやって彼を絶頂まで導けばいいのか解らない。
でも早くしなければ食事を運びに三人は女中さんがやって来てしまう。
「……ッ、早くしないと、この状態見られちまうぞ?」
困惑しながら撫で続けていたせいか、彼は少し息を詰まらせたように言った。
「でも、どうしたら、」
びくびくと掌の中で反応する彼の陰茎はまだ射精をしない。
白く半透明の液体が分泌されるだけで、掌のすべりばかり良くなってしまった。
くちゅくちゅと粘質の音だけがする。
襖一枚隔てて、廊下の先でパタパタと忙しなく行き来するスリッパの音が耳障りだ。
いつこの部屋の前で止まるか解らない。
焦りだけが募る。
先程の温泉のときのような大胆な行為が出来ない。
「…ぁ、あ…、き、嫌いにならないでね…」
彼の肩を押し、体勢を入れ替えた。
上がり框に深く彼は腰掛けて、その足の間に身体を侵入させる。
完全に勃起した彼の陰茎が眼下に広がり、思わず両手を添えてじっくりと観察してしまう。
先程水面越しに見た、萎えたものより随分大きい。
これが、普段、自分の奥にまで入っているのか、と内心恐怖に怯えた。
「舐めてくれんの?」
少し前のめりになった彼に頬を掴まれて、瞼に口付けを落とされる。
やろうとしていた事を見透かされて、なお行動に出るのに躊躇した。
依然頬を撫で続ける彼の様子を伺いつつ、ゆっくりと舌先を伸ばす。
舌先だけではまだその苦さは伝わらない。
その太い陰茎の根元へ辿るように、舌を滑らせて横に頬張った。
唾液を口いっぱいに溜めて全体に塗りつける。
「めずらしー… やべ、ちょっと写メりたい」
「いやだよ…ん、早く、イって」
「お前が可愛すぎて今にもイキそーだけどさぁ…っ!」
息を詰めて、顔を真っ赤にさせる。
くちゅくちゅとわざといやらしい音を立てて、彼の性欲を責めた。
先端を舌先でちろちろと小刻みに舐める。
滲み出た白い蜜を舌で掬い取るが、じんわりと苦味が咥内に広がって思わず眉をしかめた。
しかしその苦味から逃げている時間など無くて、
ぱくりと先端だけを口に咥えた。
口に入りきらない太い幹には両手を添える。
彼の射精で顔や身体が汚れてしまうのは避けたい。
「ん、…咥えてるだけじゃなくて、」
催促をするように彼が髪に指を差し込む。
ゆっくりと咽喉の奥まで咥え込み、そして引き抜く。
内側から頬を膨らまされ、また咽喉の奥へと押し込められる。
「ぅぐ…っげ、ほっ げほっ」
抜き掛けた陰茎を急に押し込められたせいで、そこから分泌された先走りと自分の唾液が気道に入り思わず咳き込んだ。
吐き出すように陰茎を口から抜く。
「急に動かさないで…って、何して…!」
四つんばいになった状態の僕の浴衣を捲られる。
伸ばした手を下着の中に入れられて、思わず身体を強張らせた。
「お前も気持ちよくなれ」
「っむり…集中できな…ァあっ」
中指が奥まった場所に突き立てられる。
水分を纏わない指先では第一間接までがやっとで、ぬちぬちとひだを拡げるようにしてくねらされた。
「やだって、早くイってよぉ」
そこに触れられるだけで自然と顔が熱くなった。
本来の性交であれば触れる必要性の無い場所に指が入り、言葉を失うほどにそこをぐちゃぐちゃにかき回されるのだ。
なんとか意識を保って彼の性器を根元まで咥え込み、性急に舌を動かした。
ぐちゅぐちゅとわざと音を立てて抽出を繰り返し、彼の性欲を駆り立てる。
「ああ、クソ…ッ」
熱い息を吐きながら動かしていた彼の指先の動きがびくりと震え、止まった。
肉厚な舌を必死に陰茎に絡めて、ちゅうちゅうと先端を啜る。
自分でする時の様に陰嚢を手のひらで揉みながら、一生懸命に奉仕した。
「もう出すから、……っ溢すなよ…」
頭をぐっと掴まれ、涙目でこくこくと肯く。
少々乱暴に、がこがこと頭が動かされた。
上顎も、頬の裏も、口蓋垂まで犯された。
「…ッ、イ、く……ぅぁ、」
根元まで押し込めて、低く彼が唸る。
咽喉の奥で射精されたのが解った。
一度口の中に留めて、出された後一呼吸置く。
さっき急に動かされた時とは違い、今度は噎せることなく嚥下した。
「……濃い…?」
けふり、と噫気を立てるのと同時に萎えた陰茎を引き抜いた。
たまにしか口にしないそれが、何処となく濃厚な味だと気付く。
苦味というか、鹹いというか、むせ返るような男臭さというか。
「そりゃあお前、一週間も恋人に触れらず仕事三昧だったんだから…」
自慰も何も出来やしない、と。
「そんなに忙しかったの…」
少なくとも此処に着くまでのリニアの中では熟睡するくらい疲れていたのだろう。
でも、だからって。
放って置かれるのは、寂しかったのだ。
やっと会えたのにちょっとキスしただけで彼は眠って、放置。
やっと着いてタクシーに乗って旅館に着いたのにそっこー外湯の予約の時間。
そこで頑張ってしたお誘いだって、スルー。
ハイレベルだと一蹴されたのを思い出し、今更ふつふつと怒りが湧いて来た。
「やっぱり怒ってる……のか?」
「怒ってます、色々と」
「だよなあ…」
ばつが悪いといった表情で彼は出しっぱなしの性器を下着の中へしまう。
僕は僕で肌蹴た浴衣を綺麗に直し、裾を正した。
「…寂しかったんじゃないんですか?」
忙しかった、で全てを済まされるのはしゃくだから、彼に言われたとおり、思い込んでみる。
「…寂しかったさ」
「僕だって、貴方がいなくて退屈してたんですよ?今頃何してるかな、とか考えたり、メール見てくれたかなって四六時中携帯と睨めっこしてました。自分の誕生日なんてそっちのけで。だから、絶対『会いたい』って言わせたかったのに」
東京駅に来い、だなんて。
「……ずるいひと」
それでも会いたくて、すぐにでも家を飛び出た。
正直、手を引っ張られて、改札を抜けてリニアに飛び乗ったとき、彼に誘拐されてるようで胸が躍ったのだ。
このまま二人でどこか遠くまでいけるような気がした。
「お前のそういうとこ、俺、すごく好きだ」
唐突に好きだと言われる。
「…ずるい…」
こんなタイミングで、好きだといわれるだなんて。
ぎゅっと抱き締められる。
「ずるくてもいいだろ、こうでもしなきゃ、お前の気を引けないんだから」
僕の気を引くためにわがままを言う彼が愛惜しい。
他の誰にも見せない、子供っぽい彼の仕草を見るたび、独占欲が胸の中に燻ぶる。
「そんな事しなくても、僕のこころは貴方…ニールでいっぱいなんですよ」
貴方がいつ離れていってしまうか
貴方がいつ僕を捨て去ってしまうのか
それが不安で仕方が無い。
どうにかして彼を引き止めていたい
どうにかして彼を繋ぎ止めていたい
その方法をいつも模索している。
「俺だって、お前がいなきゃ侭ならない。アレルヤでいっぱいいっぱいだよ」
人生で最高の一日が訪れたと思うくらい、胸が締め付けられた。
彼と同じようにぎゅっと抱き締める。
この温もりを離したくない。
離したくないから僕たちは逃げた。
そんな逃避行一日目。


UP 2011/02/27-3/1

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