夢ですら見れない













※23話ネタ













(ごめん、ごめんな……アレルヤ。)

 そこは暗くて明るい所で、闇に包まれているのに不思議と明るく、己の体やその回りのものが眼で見えた。 俺はまるで水の中や、宇宙をふわふわと漂うようにそこにいた。
 言葉は、出ない。
 口も動くし、声帯だって震えているのに、自分の脳内で再生された声しか聞こえなかった。 そもそも声帯や脳など、今の体に存在するのだろうか。 それすらあやふやな、所謂”魂”だけの存在になっていたのだった。
 自分の未来など願ってはいなかった。 ただ愛しくてたまらない自分の半身の幸せな未来だけを願ったのに。 「愛してる」などといった偽りの言葉を受け入れてくれたアレルヤなど眼中に無かったのだ。 お互い精神的にも肉体的にも寂しい体を寄せ合って擦り合い暖める合い、ただただ肉欲に溺れた。
 その罪深く(今の時代はそうでもないけれど)非生産な行為に愛を求めたのは俺で、アレルヤはそれに答えてくれた。 アレルヤも俺も、なんと無知なんだろうか。 本当に愛してるかなんて知ろうともしなかったし、知りたくもなかった。 でも彼は俺を愛してくれたし、俺もそれ相応の愛を返したつもりだった。
 なのに。今になって気付いたのだ。
 肉体から放たれる寸前まで、命を絶つ寸前まで考えていたのは愛しい愛しいライルの事なのに、何故? 虚しい問い掛けが暗闇の中を渦巻いた。
 彼もまた今、愛しい名前を囁いている。 シューシューと空気の抜ける音と、微かな声が重なり合う。 革と金属で出来た医療用の椅子に拘束され、同じく革と金属で出来た自殺対策用の猿轡を嵌められていた。 それでも尚愛しい名前を囁いて、悲しそうに眉を潜めた。
 マリー、マリーと何度も俺が知らない名前を!

(アレルヤ……――)

眼中に無かったのはきっと、お互い様だったのだろう。
本当に今更だ。
今更、この気持ちに気付くなんて。
何故もっと愛してあげられなかったのだろう。
何故もっと触れ合えなかったのだろう。
何故もっと解り合えなかったのだろう。

(さようなら、アレルヤ。お前はお前の未来を……――)

 解り合えても、アレルヤが己を好きになってくれるなんて、到底有り得なかったろうが。
 それでも最期の余韻を味わうように俺は何度もアレルヤの体に擦り寄り頬を撫ぜ、啄むようにキスの雨を降らせた。 幾度も触れた肌はもう透き通り過ぎてしまうけれど、窶れた顔を励ますように慈しみ、まるで母のように彼に愛した。
―愛してる、愛してる愛してる!―
 念じた想いは伝わる事はなく、伏せられた瞼はついに開かなかった。 どうすればこの響きは彼に届くだろう?
どうして彼を独りに出来るだろう?
愛したい、ただひたすらに。
なのに今ではもうそれすら叶わずに、自分は昇華してゆくのだ。
砕けていく星のように、どこか遠くへ。













「――……ロックオン……?」

 その後、彼はマイスター達に救出され、再び世界に立ち向かった。
もう一度生きる願いを携え、頽れぬように。
彼もまた彼のように、夢でさえ見れない。





08/11/02 UP

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