call








指先から、温もりが肌に伝わり徐々に広がっていく。
じわり、じわり、とそれは僕の体を蝕んだ。
侵蝕された所処から快感が甘く僕を支配する。
蔦葛が僕の体を伝い蔓延ってやがてそれは脳に根を降ろすと、温もりが触れた所処から消えていく感覚に囚われた。
貴方は何も言わない。
僕も何も言わない。
二人は、その名をどれも識らない。
一度だけ、「僕のなにがすきなの」と訊ねた事がある。
彼はただ「なにもいわないところ」と答えた。僕は、それに何も言う事は無かった。
いや、言えなかった、の間違いだっただろう。
それは「すき」という項目に属するのだろうか?
少なくとも本や映画、ドラマを見る限りではそれは「Love」にはあたらないのでは無いのだろうか。
そもそも、「Like」にすら入っていないんじゃないのか?
こんなにも僕は貴方に脳を侵されて、今にも壊れて終いそうなのに。
「はっぁ、あ、あ、!!」
息が途切れ途切れになって、引きつった声が同時に漏れた。
嫌な事を思い出してしまった。
こめかみから後頭部、そして前頭葉に激痛が走る。
知らない、怖い。
思い出したくないのに、貴方はどうして優しく僕に触れるの。
どうせならいっそ、蹴って殴りつけて、突き放して欲しいのに。
貴方ならそれでも、満足出来るでしょうに。
体を割り開いて、それでも優しく僕をいたぶる。
わざと感じる所処ばかり突いて、嫌がる僕を絶頂まで導く。
投げ出された足を抱え上げ、よりいっそう深く挿し込もうとするのだ。
脳天まで貫かれると思ってしまう程に奥へ奥へ、と入って来る。
そして彼が絶頂を迎えると胤付けするように腰を擦り付けながら最奥に一滴余す事無く注ぎ込む。
目の前に流星が見えた。
スパークする快感中枢を抉るように突き上げられ、口からはあられもない声と唾液が漏れた。
吐きそうになるほどの不快感に、僕は思わず口を押える。
もう、何が気持ちよくて何が気持ちわるいのか解らなかった。
ただ自分さえも知らない体の奥底に、だいすきな人の精液が注がれている。
それだけで僕は天にも昇れる程の絶頂を迎えられた。
「くち、塞ぐなよ……っ」
息も絶え絶えにロックオンは言うが、僕は先程思い出した事で頭を締め付けられていると錯覚する程の頭痛に見舞われていた。
貴方は、黙っている僕なら好きでいてくれるんでしょう?
正直、自分の卑屈な思考と態度にはうんざりしている。
それでも彼が自分を好きでいてくれるなら、と我が身を棄てに走るのだ。
戦闘以外でなら、どれだけでも自分を捧げるという自分勝手な自虐と奉公。
「は あ、あぁ、」
目の前にまた、チカチカしたものが映る。
先程精を出したばかりのロックオンは、口を押さえている僕の手を退して握る。
そしてまだトロトロと精を出し続ける僕を尻目に激しく律動を繰り返すのだ。
これが一晩に、何度も繰り返される。
何度絶頂を迎えようが、彼が僕の中に芽吹かぬ胤を植え付ける度に僕の性器は頭を擡げるのだ。
底無しの胤無し超兵なんてよく言ったもので、僕は貪欲に彼を求めた。
もっと僕を犯して、引きちぎって貪って、骨と皮だけにして欲しいのに。


「いつも待つの、面倒だろ」
激しい交わりの後、僕はこれ以上彼を求めてしまわぬよう情交の余韻を消す為にシャワーを浴びていた。
それは僕なりのセーフティ・ガードだ。
シャワー上がりでジーンズを履き崩しタオルを頭に掛けるというそんな格好の僕にロックオンはベッドサイドに備え付けてあったメモラックから取ったのであろう一枚の紙切れを渡した。
それには走り書きで法則性の無い11桁の数字が羅列していた。
これは?と思わず聞き返すと、ロックオンはさらりとこう告げる。
「プライベート用の携帯番号」
ついメモとロックオンの顔を交互に見やる。
この人は何を考えているのだろうか。
僕なんかにそんなものを押し付けて何になると言うのだろう?
嬉しさと戸惑いが複雑に混ざり合い、彼の思考回路に困惑して怪訝そうにロックオンを見ると、困ったように彼は髪を掻き上げてから俯せで横たわっていた体を回転させ上体を起こしベッドから足を降ろして腰掛ける。
「そんな睨むなよ……まあ、これはアレだ。ヴェーダ対策」
「それとこれになんの関係が?」
タオルで頭を拭いながら話を続ける。
わしわしと少し乱雑に水分を奪いながら足で床に落ちていたシャツを近くに寄せる。
「アリも大あり。俺らはヴェーダが非推奨する超Sランクの大罪を今こうして犯してんだぜ?こうやって一般回線使って誤魔化すの」
ヴェーダには幾つかのトラップ・ワードがある。
その中の項目は知ってる限りでは以下のことだ。
マイスター同士で殺し合いをしてはならない。
マイスター同士で愛し合ってはならない。
マイスター同士でガンダムの奪取を協力してはならない。
マイスター同士で戦術予報士が指示していない対ガンダム戦をしてはならない。
だが、ロックオンの発言と僕の思考は結び付かなかった。
「別にマイスター同士の性欲処理なんてヴェーダは非推奨してないんじゃ無いですか?そもそも、男同士ですし推測の範囲外ですよ」
しれっとした態度で答える。
僕とロックオンの関係が恋人であれど、それだけがこの行為に繋がるとは到底思えなかった。
だが、確かに僕たち二人は世間で言う“恋人”にあたる関係だ。
僕の勘違いで無ければ、の話だが。
ロックオンは目を見開いて僅かに憂いを帯びた空気を纏い立ち上がった。
「……あー、まあ、また地上で落ち合う時にはそこに連絡くれよ。絶対出るから」
「………解りました。じゃあ僕はこれで。ロックオン、また長風呂しないで下さいよ」
バスローブをひったくるように掴んでロックオンはバスルームに消えた。
背中に見えたロックオンの体に残っていたようなベトついたものは僕の体には既に消えており、シャツの上にコートを羽織り僕は部屋を後にした。
本来僕に宛行われたホテルは、ここから南方に25キロメートル先。
もう電車も無い時間で、フロントを出るとタクシーを捕まえる。
先程渡された紙切れを握り締め、独り目を瞑った。


それから数ヶ月して、結局僕は彼の真意を知ることは無く、死別した。
何度も掛けようと思っていた番号をついにプッシュする。
長い長いコールの後、ガチャ、と受話器の上がる音が聞こえた。
「もしもし?」
心臓が高鳴る。
もしかしたら、もしかしたら、あの時のように、
『…はい、ニールです。現在電話に出る事が出来ません。なにかメッセージがあれば、発信音の後にどうぞ。』
七年経って、初めてその名を識った。
僕はその名の持ち主よりも年上になっていた。
半音高い電子音に続き、僕は今までの思いを切り出してぶつける。
「ごめんなさい、好きだった。愛してた」
もう、このコール音は聴けない。
聴くことも無いだろう。
neil
それは悲しみの音だっただろうか。







10/05/28 UP
多分09年頃の作品です尻切れトンボ

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