僕だけの宝物




「…………………」
「………………………………」

 長い沈黙が二人の間を流れた。
座椅子に腰掛けるアレルヤを、ニールが立ったまま見下ろす。
逆光で、ニールの表情はアレルヤには解らなかった。

「……………あの、!?」

 ニールを見上げるアレルヤは、沈黙を破ろうと言葉を紡いだ。
しかしそれが起爆剤となったのか、アレルヤが次の言葉を発する前にニールはアレルヤの髪に触れた。

「髪!前髪、垂らしてろ」

 命令口調。
普段の、……前のニールなら有り得ない言動だった。
 あの彼なら、たとえ命令口調であろうが笑顔で語尾は優しく、もちろん労いや感謝の言葉を忘れない。
しかし今の彼は不機嫌そうに眉を顰め、睨む様にしてアレルヤを見つめていた。
ニールは触れたアレルヤの前髪を掴み、右目を隠す様に流す。

「え、ちょっ……あっ待って」

 それだけ言い終えると、ニールは逃げるようにブレイクルームを後にする。
アレルヤは今起きた事をまだ理解出来ずにぽかんと口をあけていたが、走り去るニールを見た瞬間即座に彼の後を追った。


 逃げるニールの肩を掴み、アレルヤは一度息を飲んだ。
ニールの気持ちを再確認する様に、アレルヤはゆっくりと言葉を発する。

「………怒ってるの?」
「っ、ああそうだよ!怒ってる!俺と一緒にいた時ですら頑なに隠してたのに、なんで今更!」
肩を掴むアレルヤの腕をニールは強く振りほどく。ニールの眉間には皺が寄り、その怨むような視線にアレルヤは驚き戸惑いを現した。
「それは、ええと」
「兄貴役だから、って今まで我慢してた!けどもう無理だし、……………ずりぃよ」
何が無理なのか、その言葉から痛い程ニールの気持ちがアレルヤには理解出来た。マイスターの兄役は既に降ろされて、今ではもう立つ役も、戦う能力すら無い。そんな非力な自分が、ただ愛するだけしかないだなんて、ニールには辛過ぎたのだ。
「……ごめんなさい」
「俺だけの宝物だったのに」
「………ごめんなさい」
再度アレルヤは謝罪の言葉を述べる。むしろアレルヤ自身も、愛するだけの自分が憎く、同時に愛する資格も無いのだと思っていた。
「キスしろ」
「えっ」
「アレルヤからキスしてくれるまで俺、ずっと怒ってるから」
「………っ」
愛したいのも、愛されたいのも、きっとお互い様だったのだろう。
「……してこないなら俺からするけど?」
「……ずるい……」

 アレルヤはぎゅっと目を瞑ったたま伏せた。
その俯いた顔を覗きこむようにして、ニールは首を傾げて唇を寄せる。
後5センチの所でニールは立ち止まり、また眉を寄せた。

「目」
「……?」
「閉じるの禁止」

 そうニールが言うと、アレルヤは弾かれたようにばっと顔を上げて抗議の色が浮かぶ銀灰と黄昏の瞳を広げる。
抗議の言葉は重ね合わされた吐息の中に消え、開かれた瞳はニールの強い光を放つエバーグリーンと視線を交えた。




「なあ、兄さんは、アレルヤの何処が好きなの?」
「………眼」




「アレルヤは、兄さんの何処が好きなんだ?」
「眼……かな」

結局は似た者同士な訳です。





09/09/06 UP

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