しあわせ家族計画
※拍手お礼


「んーっ……今日も疲れた……」
「お疲れさん。刹那とティエリア、寝たぞ」

 午後11時を少し回った頃、リビングに置いてあるソファに座ったアレルヤがぐっと伸びをしていると風呂から上ったニールが後ろから戻ってきた。

「ロックオンも、お疲れ様です」

 ソファ越しに振り返ると、ほわほわとニールから立ち上がる湯気がアレルヤにかかる。ローソファの背凭れに肘を掛け膝を付き、後ろからアレルヤの顔をニールは覗き込む。その顔は眉を寄せ、怪訝そうにニールを見詰めた。

「まったく貴方は!髪、まだ濡れてますよ」
「ん、そう?」
「もー…貴方まで子供になったら僕の身が持ちませんよ」

 アレルヤはわしゃわしゃとニールの肩に掛けてあったタオルで、その柔らかなモカブラウンの髪を乾かす。ウェーブしているオレンジがかったニールの長めの髪はアレルヤのお気に入りだ。ふわり、と風に揺れるその様が好きで、痛めてしまっては勿体ないと決して力はいれず、綺麗に余分な水気だけを拭き取った。

「いいのいいの、俺がこうして甘えられんのはお前さんだけだから。特別と思えよ」

 アレルヤの絶妙な指使いと力加減に、気持ちよさげにニールは微笑みながら言う。その天使と見紛う微笑にアレルヤは懐柔されてる、と思いつつも拭き終わった髪に指を差し入れその感触を味わった。

「……じゃあ、僕は貴方には甘えられないね」

 しゅんとしてぽつりとアレルヤが呟く。ニールに甘えられるのは嬉しいし、自身に甘やかされてるニールを見ていると心が満たされる。出来るならもっと甘えてくれてもよいのだが、ニールはほんのたまにしか甘えて来てくれない。それはきっと己がニールに甘えきっていて頼れる存在では無いからだ、とアレルヤは自分に叱咤する。しかしニールはそのアレルヤの呟きを別の意味に捉えた。

「ほらほら、おひざにおいでー!」

 ニールはローソファを跨いで座り、伸ばした膝を手で叩いて満面の笑顔でアレルヤを呼ぶ。ばしばしと膝を叩く音は痛々しいが顔は緩みきって非常にミスマッチだ。しかしニールの心や脳内は喜びでいっぱいだった。あのアレルヤが、あのアレルヤが!自身に甘えたいと言ってるではないか!しゅん、としおらしげにこちらを見ているアレルヤがこの上なく愛しかった。

「え、ぇえ!?」

 ニールもアレルヤに甘えて欲しいと、常日頃から考えていた。だがアレルヤは自己表現をしてくれず、ふとした瞬間の「あれが欲しい」「あれをしてほしい」という表情を読み取るしかない。いくらなんでも特技:人付き合いのニールでもそれはひどく難しい事だった。だが二人は目の前にいる相手がまったく同じ事を思っているとは、気付いていなかった。

「ほら早く」

 にこ、ともう一度微笑んでアレルヤの腕を引っ張る。アレルヤがふっと浮いたように感じた時にはもうニールの腕の中だった。満足げにニールがアレルヤの肩口に顎を乗せる。僅かに鼻歌が混じる吐息がアレルヤの耳元を掠めた。

「うぅ、ぁー……」

 気恥ずかしさと嬉しさでアレルヤの顔が紅潮し、もにょもにょとどもる。しかしそんな事はニールには解りきっていて、追い討ちを掛ける様にして耳元でこう囁いた。

「黙って俺に愛されろ」

 自信満々に言うニールの顔は、アレルヤと同じく真っ赤に染まっていた。


【おわり…と見せ掛けて続き!】


 こうして二人が久し振りにラブラブワールド全開の時、ディランディ家の玄関が開いた。

「ただいまー……って二人共何してんの」

 上ってきたのはディランディ家の一員であるライルだった。その人物の急な登場に、ニールとアレルヤは驚き身を更に寄せ合う。

「わあっ!?っライルかよびっくりさせんな」
「お、おかえりなさいライル……」

 赤い顔でライルを迎える二人だが、その二人の様子を見てライルは溜め息を吐いた後こう言った。

「……えっと、イチャイチャすんなら子供達が見えない所でしたら?ベッドルームとかベッドルームとかベッドルームとか」
「ベッドルーム以外選択肢無いのかよ!って刹那ティエリアが!?」
「どどどどうしようロックオン、二人とも起きて……はっ!」
「「これはっ、その、なんというか!」」

 ライルの助言?に子供達が見ていたという事に気付いた二人は一気に体を離して立ち上がり手を上下左右に振り回して誤魔化そうとする。しかしそんな二人にティエリアの発した言葉が突き刺さった。

「……ふむ、今日からニールをお母さん、アレルヤをお父さんと呼ぶべきか……刹那はどっちがいい」
「ティエリア、前が見えない。手を離してくれ」
「ああすまん。もう見ていいぞ」
「「!!??」」

 アレルヤは茫然として床に頽れ半分意識を手放した。ニールは頭を抱え、意を決してティエリアの側に近寄り頭を撫でる。

「ティエリア……アレルヤがお母さんじゃ、ダメかな……?」

 その瞳は微笑みを浮かべながらも、「母と呼ばれるのだけは回避しなくては」という色が滲み出ていたと後にティエリアと刹那は語った。

「あぁああ…ライルぅうう!気付いてたら早くどうにかしてよお!」
「いや俺が帰った頃にはもう遅かったし……」

 ニールの「アレルヤが母」発言を気にも止めず、アレルヤはライルの足に泣きながら掴み掛かる。ニールは必死にティエリアと刹那を説得していた。

「ていうかさあ……アレルヤそろそろ兄さんの事ちゃんとニールって呼んであげたら?」

 そのライルの発言で、ディランディ家に核爆発が起きた。(BGM:未知との遭遇)

「…………そっ、そういやそうだ!なんでライルはライルで俺は「ロックオン」なんだよ?」
「それは、その、呼び馴れて無いだけで?」

 アレルヤの肩を掴んでニールは早口にまくし立てる。ニールが猛然と迫ってくるが、アレルヤは目を合わせずあちらを見る。

「じゃあ馴れろ!言え!今言え!」

 期待感を抱いた視線で見詰められ、耐え切れずにアレルヤは折れた。

「……っ、ニー、ルっ……」

 その絞るように出した声に、ニールはまた顔を赤くする。

「っあ、やっぱロックオンでいい……」


「はーいせっちゃんティエちゃん今日はライルおにーたまと一緒にねんねしようなー」
「了解。ライル絵本を読むのを頼む」
「らじゃー」
 その一連を見ていたライルは刹那とティエリアを小脇に抱え、子供部屋に消えた。夫婦の夜はまだまだこれからである。





09/08/26 UP

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