アウトサイド

 それは普段となんら変わらないあるグリニッジ標準時間上の昼下がりの事だった。

《ハッチオープン!小型輸送艦、トレミーと同機、着艦タイミングをロックオンに譲渡します!》

「オーライッ刹那ちゃんとシートベルトしとけよー」
「了解した」

 地上ミッションの後、恒例のトレミークルーによる主に個人的な買い出しを経て、ロックオンと刹那は帰ってきた。輸送艦には偽装に偽装を重ねたガンダム二機と、主に女性陣の個人的な注文品とお土産がぎっしりと詰まっている。普段の激しいミッションに比べて比較的安易なミッションだった今回の作戦は刹那とロックオンの地上組による武力介入だった。ミッションの後また東京の駐屯地に戻ろうとする刹那をロックオンは取っ捕まえて買い物に連れ回し、あげく「エクシアのメンテ」とエクシアごと刹那をトレミーに連れ帰ったのだ。

「ロックオン、エクシアをメンテナンスしてきていいか」

 そわそわと落ち着かない様子でロックオンに訴える刹那は、とてもじゃないが16歳には見えなかった。非常に愛らしいが、ロックオンは刹那を引き止める。

「駄目!メンテはおやっさんに頼んであるから、俺達は輸入品配り!」
「エクシア……俺のガンダム……」

 そもそもガンダムをあんな所に隠してあるのが悪い、とロックオンは言う。あんな所というのは海の中だ。しかも汚染されていてとてもじゃないが泳げない東京湾に。そこに刹那は飛び込みガンダムに乗り込むというのだから、ロックオンは頭を抱えた。ロックオンの頭の中の辞書にある刹那の項目に、「野生」と「天然」が加わった。

「よーし行くぜ!」
「おー」
「元気が足りないぞ刹那!それだと女性陣に圧倒されて即P!K!だ!」
「……お、おおー!」

 ノーマルスーツから着替える為に一度二人はシャワールームに入った。皆への荷物は大きな袋にいれられてふわふわと無重力空間に浮いていた。風呂上りの二人がガッツをいれている。連日続いたミッションに地上から上がってきたばかりの二人はヘロヘロだか、この荷物を配るという任務を終えなければベッドにもたどり着けない。まだ湯気ものぼる体を連れて、二人はまずブリッジに向かった。

「あ、お帰りなさい!ロックオン、刹那」

 ブリッジに入ってまず声を掛けてくれたのはアレルヤだった。どうやら今日はイアンとDr.モレノ、ティエリア以外はこのブリッジに居るようだったので、今回は配るのが楽そうだな、とロックオンは考えた。アレルヤの声に気付いたのか、他のクルー達も「お帰りー!」だの「お土産は?」だの言ってきた。

「おー、皆久し振り?」
「久し振りですねえ。刹那も、元気だったかい?」

 ニコニコと笑みを浮かべて、アレルヤは刹那に元気だったかと問う。なんせ刹那は一ヵ月近くトレミーに戻っていなかったのだ。意外と心配性のアレルヤは、刹那の定期連絡が遅れる度安否を心配した。

「ほら刹那、アレルヤが聞いてるぞ?」

 とうの刹那は、頭一つ分大きなロックオンの背に隠れた。苦手意識なのか、ただ恥ずかしいだけなのかロックオンには解らない。しかしアレルヤは刹那の反応に、自分は嫌われているのかと肩を落した。

「俺、ティエリアやイアンに届けて来………!」
「……刹那!それに、ロックオン」
「「ティエリア!!どうして此所に」」

 刹那とロックオンの声が重なる。

「イアンから二人が戻ったと聞いて、それで……」

 もじもじと伏せ目がちにいうティエリアは、先程の刹那と同じくとても可愛らしい。普段のツンケンした物言いは消え、今日は何処かしおらしく刹那に近付いた。

「刹那、ー…」

 ティエリアは刹那の耳に手を添え、こそこそと何かを言った。それはロックオンとアレルヤの耳には届かなかったが、二人が並んでいると非常に愛くるしかったので、「仲良き事は美しきかな」とほんわかした気持ちで二人を見ていた。端から見たらただの親バカだろう。

「解った、それについては後で話そう。ロックオン、俺はティエリアとイアンとDr.モレノに荷物を届ける」
「あ、ああ、解った。ほれ」
「ロックオン、すまない」

 ぼそり、とティエリアが謝った。あのティエリアが!?とロックオンとアレルヤを始めとしたクルー達が目を丸くした。ドクターとイアンとティエリア、そして刹那の四人分の荷物を持ち、二人はブリッジを後にした。

「……あの二人って、あんな仲良かったっけ?」
「さあ……」

 ロックオンの呟きは、空虚なる闇に消えた。





「取り敢えず配るか?…まずミススメラギ」
 どん、と出されたのは言わずもがなで世界各国の色んな酒瓶がスメラギに渡された。そのセレクションは総てスメラギの好みで出来ており、中には誰も知らないような種類の酒さえあった。

「きゃーありがとう!これでまた仕事に熱が入るわぁ!だ・い・す・き・よロックオン」
「は、はは……また間違ってチューブに入れた酒配らんで下さいよ……」

 スメラギの熱烈歓迎にロックオンは苦笑いをして、一応忠告だけしておいた。その言葉にスメラギは分かっているわよー、と頬を膨らませ、酒瓶を両手いっぱいにブリッジを後にした。きっと秘蔵の蔵にでも隠すのだろう。この船の中では一滴でさえ酒はスメラギのものだった。個人的に持っていないかぎり、スメラギから頂く事になっている。それほどまでにスメラギは酒好きだ。

「次はーっと、リヒティとラッセ!」
「ヤッター!やっと届いたー」

 リヒティは両手を上げ喜び、ロックオンから荷物を受け取った。その荷物はブリッジ傍にあるロッカーに直された。ラッセもロックオンから浮けとると同じくロッカーにいれておき、また操舵席と砲撃席に戻った。

「クリスはこれだっけ?それとこれはフェルトの」
「ありがとーロックオン!……中、見てない?」
「……ありがとう」
「見てない見てない!、どういたしましてフェルト」

 どうやら中身を見られてはいけないようなものをクリスは頼んだようだが、色とりどりの包装紙やリボン、箱、紙袋はどう見てもティーン向けぐらいのファッションブランドのものだろう。フェルトはロックオンからぬいぐるみと動物図鑑を手にし、ご満悦のようだった。まだまだ14歳の女の子だなあ、とロックオンはしんみりした。

「最後はアレルヤか。俺の好みで選んだけど……」
「大丈夫ですよ、貴方の本棚に外れはありませんでしたから」

 アレルヤはロックオンから受け取った本をパラパラと捲って、大体どんなジャンルの本か流し見する。科学系、推理モノ、哲学、宗教から果ては歴史、考古学やら恋愛物まで幅広く読むロックオンのセレクションはアレルヤにとってとても興味深いものばかりだった。

「あ、俺も読みたいのあるからまた今度貸してくれよ」
「解りました。……そうだ、ロックオン。ちょっと話があるので後で僕の部屋に来てもらえませんか?」
「おっけ、荷物片付けたらすぐ行く」
「了解」

 そう言うとアレルヤはブリッジを出て部屋に戻った。ブリッジに残ったロックオンは、少し男性陣と談笑して、同じくブリッジを後にする。

「あっ!そういえば今日は四月馬鹿だった。ちぇーロックオンに何か言えば良かったっす」  思い出したように言うリヒティの呟きはロックオンには届かず、脳天気にロックオンは口笛を吹いていた。




「アレルヤー来たぞー」

 ロックオンは馴れ親しんだパスワードを入力して、アレルヤの部屋に入る。部屋の主であるアレルヤは先程渡した本を熱心に読んでいた。取り敢えず、アレルヤが座るベッドの横にロックオンは同じく腰を降ろした。

「あのね、ロックオン。落ち着いて聞いてね」

 パタン、と本を閉じてベッドサイドに本を置くと、アレルヤは神妙な面持ちでロックオンの方を向いてこう言った。

「その……出来ちゃった、みたいなんだ……」

「……え、えええええええええええええええええええええええええええ!?」

 これで落ち着いていられるか、とロックオンは内心でも叫んだ。

「えっちょっ待っ、えっ妊娠?!俺達の!?」

 顔を赤くしてテンパるロックオンに捲し立てられ、アレルヤは二、三度瞬きをして息をのみ、同じく顔を赤らめコクリと頷いた。

「……っ俺地上行って来る!!」
「えっロックオン!!?今日は……っ!!」

 引き止めるアレルヤを振り切りロックオンは走って行った。
翌日。

「ごごごごごめんねロックオン!エイプリルフールなんだ!!!」
「え……妊娠、してないの……?」

 両手いっぱいに買い占めて来たベビーグッズと共にロックオンは崩れ落ちた。




09/04/08 UP

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