毎年恒例、銀魂高校吹奏楽部秋の高原合宿。三泊四日のハードスケジュール合宿が、今年もやってきやがった。
去年の初参加で、今年は絶対に参加すまいと心に決めていたが、今現在俺は何故か合宿地のホールにいる。
原因は今現在メトロノームと見詰め合っているショートヘアの女からの執念深いモーニングコールおよび自宅訪問。
「おめぇ…普通家まで来るか…」
「だって先輩がいないと練習にならないじゃないですか。先輩いっぱいソロパートあるんですから」
「おめぇがかわりにやっときゃいいだろィ」
「あんな殺人的な四分三連の嵐、ロールの後の私にはこなせません」
「ちっ…しょうがねぇ。今回の合宿で嫌でも出来るようにしてやらァ」
朝から長時間バスに揺られ、ようやく着いたところで酔いの中昼飯にカレー、そしてそこからずっと基礎練。
はじめは「ひぃぃ」と情けない悲鳴をあげていた日撫も、今はほとんど無言でスティックを動かしている。
たったかたかたか、ルーディメンツを最初から律儀に叩き続けているこの女、全く持って飽きも疲れも見受けられない。
と、言うかこの微妙に暑い中、汗をかきつつも一度も休憩をしていない。水分補給すらしていない。
たたったたたたたんた…ブツブツ呟く調子は変わらない、が…こいつほっといたらそのうち倒れるんじゃねぇか?
「日撫、休憩」
「た、った、たんた…う?え?あ、はいっうわぁ、きゃあぁ!」
放り投げたペットボトルは、日撫の手に吸い込まれることなく、ごつりと額の中心に吸い込まれていった。
ぐらり、と体勢が崩れて、がしゃんごしゃんじゃらじゃら、凄まじい音がして、日撫は周囲の楽器を巻き込みながら倒れた。
ぐわんぐわんぐわん、と最後にシンバルが鳴り終わった。ついでヒグラシの鳴く音が微かに聞こえるが、楽器の雪崩からは呻き一つ聞こえない。
さすがにやばいか、内心焦りながら倒れたそれらを一つ一つ起こしていくと、途中でマリンバの下から日撫が這い出してきた。
「おい、怪我ありやせんか?」
「先輩ぃぃぃ…ペットボトルがぁぁ…」
「はぁ?ペットボトルがなんでィ」
「パーンてなってツリーチャイムに水が…グロッケンも水浸し…」
「…日撫…」
後始末は任せたっ!
「先輩も手伝ってくださいよ!元はといえば先輩が急にペットボトル投げるから…」
「なんでィ。後輩が熱中症にならないように気遣った俺になんか文句があるんですかィ?」
ぐずりながらもピンピンとした姿に、内心ほっとしていたのは絶対におくびにも出さねぇ。