「先輩…なんで私はこんなところにいるのでしょうか…」
「おめぇそんなことも分かんねぇのか?俺が呼んだからでィ」
「ですよねぇ…」
おーるうぇいず、ついてこい
夏休み終盤。明後日が始業式な今日。ぐったりとため息をついた、きっちりと制服を着た日撫の腕をぐいぐいと引いて歩く。
「私今日は美那子と買い物行く予定だったんですけど…」などと呟く日撫は、五歩に一歩の割合で躓いている。
それに構わずスーパー内を進めば、昨年よりもやはり随分と進みやすい。
「あのぉ…なんで私はスーパー内を引きずり回されてるんでしょうか…」
「実験でィ。実験」
「何の実験なんだか、私にはさっぱり分からないんですが…そして先輩、このかごに入ってる調味料はなんですか」
ようやく自分の足で歩き出した日撫が、両手に持ったかごに次々と投入されるものを若干引き気味の目で眺める。
「マヨネーズとカラシでィ。見て分かんねぇんですかィ?」
「いや、それは分かりますけど…なんでこんなに大量に…」
「そりゃ勿論、土方コノヤローに対する―――来た!隠れろ!」
「へ?は?うわっ」
両手にぎっちりマヨとカラシを詰めたかごを持った日撫を、かごごと商品棚の間に押し込む。
そこに蓋になるようにひっそりとターゲットを伺う。よし、店員を呼び出した。
「重いです、狭いです、なんで隠れなきゃいけないんですか」などとうるさい後方に、一度チョップを繰り出してから商品を半分元に戻してレジへ急いだ。
これでマヨネーズがないと、店員にブチキレた土方は、商品棚に戻ったところで居心地の悪い気分になるだろう。
額をさすりながら目じりに涙をためている日撫を急かして、スーパーを後にした。
「先輩、結局なんだったんですか、これ。この私だけで持ってる重たい袋の中身…」
「だからマヨネーズとカラシだって言ってんだろィ。今からこれの中身を半分ずつ入れ替えて土方に送りつけるんでィ」
「…なんですかその嫌がらせ。まさか私の一日はその人に対する嫌がらせのために潰れたんですか!?」
「これでおめぇも共犯者でィ」
にやり、笑って振り返れば、日撫は重たい袋をぶら下げた両手で頭を抱えてしゃがみこんでいた。
袋の片方と手をとって、ぐいっと引っ張りあげれば「あの瞳孔が開いた怖い人ですか…」という呟き。
その呟きを無視することで肯定として、ぐいぐいと家まで引っ張っていった。途中誰にも話しかけられず。
こりゃ丁度良い荷物持ち兼女除けだな。どっか出掛ける時は連れ歩くか。