逆光の中に先輩。そしてゆっくりと立ち上がった先輩が私の言葉をさえぎった。
「あのっ、先輩……私また何か―――」
「先輩禁止」
「え?」
いつぞやのデジャヴ。けれどその先の言葉は少しだけ違った。その少しが、かなりの意味を変える。
「名前で呼びなせぇ。日撫……俺の彼女になるなら"名前"。嫌なら"先輩"」
「あ、え、う……あ、えっと……あのっ、それって、えっと……」
それって告白でしょうか!そう聞きたいのにどうにも言葉が詰まって出てこない。
先輩の顔は逆光で見えないし、つまり私の顔は先輩から丸見えなんだから、この真っ赤であろう顔……
どうしよう!答えが顔面に出てるよね、これきっと!けれど影で見えない先輩は非情にもカウントダウンを始める。
「十、九、八、七―――」
これはなんのカウントダウンだろうか。ゼロになった時に何も言えなかったら私はどうなるんだろうか。
私と、先輩の関係は、どうなるんだろうか。もしかしてぎゅっ、と絞められてしまうよりも恐ろしい、何にもなかった関係になってしまうんだろうか。
「六、五、よ―――」
「そっ、総悟!」
屋上に私の声が響いた。うっ……わぁぁああ!どうしよう!なんだろう!これ、どうしたらいいんだろう!
先輩の顔は相変わらず見えない。けれど、びくり、と肩が飛び上がったのは分かった。それに私の心臓もびくり、と飛び上がった。
無言の数秒。私は耐え切れなくなって顔を覆った。
「総悟、総悟、総悟、総悟、総悟、そう―――」
「だあっ!もうちょっとおまえ黙れ!名前呼ぶな!恥ずかしいだろィ!よくもおまっ……本当に心臓に悪ィ……」
「好きです。好き、好き、好き、好き、すぎゅぅ」
「分かった!分かったから勘弁してくだせぇ……」
気づいたらぎゅうっ、と先輩に抱きしめられていた。おずおずと顔を上げると、ほっぺから耳から首から、真っ赤になった先輩がいた。
よくよく見れば涙目になっていない気もしない。そう言えば私も視界が少し歪んでる気がしないでもない。
背中にぎゅっと腕を回して先輩の心臓の音を聞く。もしかしたら私のかもしれないけれど、とりあえず聞こえる心音はとっても早かった。たぶんアレグロくらい。
「先輩、私のこと好きですか?好きだったら"名前"で呼んでください!」
「―――っ!あ、あのなぁ……それ二番煎じですぜィ……」
なんでですか、ねぇセンパイ!
ねだったら先輩が私の名前を呼んだ!