万屋のメンバーが三人から四人に増えたのはいつだったか。
よくは覚えていないけど、この女はいつのまにか、完全にこの家に住み着いている。
20代の男女が一つ屋根の下。あ、10代の胃拡張娘もいたわ。
まああれは青い耳の取れたネコ型ロボみたく押入れで寝てるし、カウントしない。
20代の男女が一つ屋根の下。これってあれじゃね?世間一般で言ったら同棲じゃね?

「世間一般で言ったら、でしょ。私の場合は寄生よ、寄生。ほら、サナダムシだっけ?人体に巣食う寄生虫みたいな」

「自分で言っちゃったよこの子。自分の事自分で寄生虫とか言っちゃったよ」

「あぁ、間違えた。私の場合はサナダムシじゃないわ。なんだっけ、カミキリムシの幼虫に卵産み付ける…ウマノオバチだっけ?」

「知らねぇよ!それって要するに俺が食われる側の幼虫ってことか!?」

「それ以外にどう捉えるつもりよ。内側から中身を食い尽くすのよ、私は」

「すっげぇ怖いこと言ってるんだけどこの子!」

「はじめは無害なただの卵だったのに、日が経つにつれて、成長するにすれて、宿主の体内をからっぽにして、最後は残った皮を食い破って羽化するのよ」

誰かあの子の口塞いでぇぇえ!若干ホラーなんだけどぉぉお!
淡々としたその口調。脳裏には俺の腹を突き破って血まみれで現れる亜衣が…って怖ぇぇええ!!

「おまっ、そんな恐ろしい話はやめて面白い話しろよ!」

「銀ちゃん、私に喧嘩売ってるの?面白い話しろって言われて、面白い話なんか出来るわけないじゃない。ハードル上げないでよ」

隣に座ってみかんを頬張るその頬が、ぷくっと膨れた。思わず突付きたくなる。
てかこいつみかん食いすぎじゃね?昨日買った3kgのダンボールの底が見え出したんだけど。
こんなに食う子だっけ?てか指が黄色いよ。まさしく黄色人種になってるよ。
色違いのちゃんちゃんこを羽織って、熱源を奪い合う。静かで、しかし激しい戦いがコタツの中で繰り広げられる。
こいつ足細いくせに力つえーから、俺の足冷え切ってんだけど。コタツに入ってるのに冷えてるってどういうこと。

「ちょ、亜衣。俺の足半端なく冷えてんだけど」

「知ってる。冷たいからさわんないで。私の足が冷える」

「おいぃぃいい!お前は絶対零度か!?氷点下を超える女なのか!?俺にその熱源の下を半分でも譲ってやろうっていう優しさはないのか!?」

「しょうがないなぁ、面白い話したら譲ってあげるよ。とびっきりに面白い話」

「ハードル高っ!」

「もし面白くなかったら、コタツから永久追放ね」

「ヒットラーがいるんだけど。ここ江戸なのにヒットラーがいるんだけど。誰かーこの子と俺の間にあるベルリンの壁壊してー!」

「他人に頼ってたら駄目ね。自分の力で崩壊させなさい。さぁ私の壁を壊してごらんなさい!」

あれ?なんかキャラ変わってなくね?なんかすっげぇラスボスちっくなこと言ってるんだけど。
てかこの子寝る体勢に入ってないですか?俺の気のせいですか?

「気のせいじゃないわよ。面白い話で崩壊する前に、眠気でやられそうよ」

「自分で言っといてそれはなくない!?」

「私の眠気を地球の裏側までぶっ飛ばすような面白い話をすればいいじゃない」

「さらにハードル高くなったよね、それ」

「大丈夫、銀ちゃんなら出来るわ。エッフェル塔よりも高く跳べるって、私信じてる」

「おーい、信じてるって言っといて瞼が下りてんぞー」

「黙れと言っている」

いや、言ってねぇよ。いつ黙れなんて言ったよ。
一瞬眉根に寄った皺は、すぐに取れて、とろんとした目になる。うわー、まじで寝る気だよこいつ。
そして寝る気満々のくせに足は頑なに動かさないっていう。どんだけ強情?
あ、目閉じた。顔を寄せれば、すーすーと規則正しい呼吸音。
あーあ、コタツで寝たら風邪ひくぞ。母ちゃんに教わんなかったのかよ。
布団まで運んでやろうかと、優しい事をを一瞬考えるが、コタツから出した瞬間にいわれない暴力を受けそうなのでやめる。
それにしたって俺の足の限界が近いんだけど。寝ても足動かさないって、もう強情通り越したよ。これ。
あ、こいつの足の上に置いちゃえばいいんじゃね?さすがに凍傷になりそうなんだけど。我慢の限界だっつーの。
そっと持ち上げた足を、細いそれに乗せる。うわっ、マジあったけぇ。なにこの子、どんだけ俺から暖を遮ってたの。

「あー…やべっ、じんじんする」

てか起きねぇし。眠り深いなぁ、なんて感心した瞬間に、こいつの目はぱっちりと開くわけで…

「面白い話が思いつかないからって強硬手段に出たわね?ついでに私に欲情したでしょ」

「なぁ、自意識過剰って言葉知ってるか?」

「足絡めといて何言ってんの。ビンビンするとか言ったくせに」

「聞き間違えぇぇ!それ聞き間違えだから!」

「襲えるもんなら襲ってみなさいよ。その時は泣くわよ」

「いや、だからお前が泣くようなことする気はさらさらねぇから」

「馬鹿ね、泣くのは私じゃなくて銀ちゃんよ」

「何する気!?」

「手始めに銀ちゃんの息子を噛み千切るわ」

「やんねぇから!やんねぇから!女の子がそんなもん噛み千切るとか言うな!がちがち歯を鳴らすな!」

うーうー唸る様は、まるで野犬か何かのよう。何、どうしちゃったのこの子、眠いから機嫌悪いの?
どうどう、と肩を叩けば、ふしゃー!と息を吐いて噛み付いてくる。ちょ、まじ噛みなんだけど!?
何がどう気に入らなくて俺の上腕を噛むのか、皆目見当がつかない。まじで五里霧中。
とりあえず押さえ込んでから、腕を押しこめば、苦しくなったのか、げほげほという咳とともに俺の腕は解放された。
しっかりくっきり歯形が残ってる。てか血が出てる気がする。いや、出てる。
なおも暴れる亜衣をどうにかこうにか押さえ込む。なんかこれ端から見たら、俺が無理矢理襲ってるみたいな図なんですけど。

「落ち着いたか?」

「落ち着いたわ。覚悟も出来たわ。食えるもんなら食ってみろ!」

「だからなんでそっちに行くの!?何、俺にどうしてほしいの!?」

「あ、ごめん。むきになりすぎた。なんか、銀ちゃんを欲情させられない自分に腹が立って」

「欲情させる気だったのか!?どの辺で!?」

「てかもう、欲情しろよ。それでも成人男性かコノヤロー。×××××ついてんのかコノヤロー」

「なぁ、本当に俺にどうしてほしいの?」

「欲情して欲しい。けど私はそれに答えない。…っていう、昨日見た金田家のお嬢様を目指してみました」

「テレビの話かよ!」

「うん。でももういいや。なんか飽きた」

「人の腕本気で噛んどいて!?」

少しだけ期待した俺って馬鹿?


乙女心と飽きの空


「ねぇねぇねぇ、みかん飽きた。林檎食べたい」

「はいはい、もう好きにして」

「そんじゃあ銀ちゃんが食べたい」

「はぁ!?」

「かもしれない」






一周年リクエスト企画でした!!

●ヴィバラビダ様
 銀時/ギャグちっく/万屋住み込み

遅くなって申し訳ありませんでした。

2009/06/14 白榎汐


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