無題(dj♀+cj♀/jojo)



今日は姉ちゃんと「お屋敷」に行く日だ。姉ちゃん曰く、もうスラムで蛙や鼠を食らって生き延びる生活はしなくていいとの事だ。その代わり、毎日パンとスープが食べられるんだってね。嬉しいな。姉ちゃんも笑っている。

お屋敷はとっても豪華だった。姉妹の汚いナリを見た家の人間達にすぐに風呂に入れられ、新しい服を着せてくれた。それからお屋敷の主人と会って、姉ちゃんが地べたに座って頭を下げたので、慌てて俺もそれに習う。ご主人は20代の若い男で、ブロンドが目に眩しかった。男は俺たちとは違ってとても綺麗だった。

「このご恩、いくら返そうとも返し切れません」
「いい、いい。頭を上げておくれ。若い召使がちょうど欲しかった所だ。これからは宜しく頼むよ」

男は愛想良く笑っていた。けれど目の奥は笑っていない様な気がして、俺は何となく苦手に思えた。



「ジョナサン・ジョースター。今日から君はこのディオの側近として生活してもらう。妹のジョセフは、そうだな。弟の世話係がいいだろう」

その日を境に、姉ちゃんと俺は離ればなれになった。尻目に映ったのは、姉ちゃんの腰を厭らしげな手つきで撫でまわす主人の顔だった。姉ちゃんはこっちへ振り向こうとはしなかった。俺は叫ぶ事も出来ず、使用人に腕を拘束され室から強制的に追い出された。



案内されたのは少し歩いた先の離れのような館。さっきいた屋敷は赤を基調としていたが、こっちは目に優しい淡い青色のカーペットが出迎えた。

「シーザー坊ちゃま」と初老の執事が誰かを呼んでいる。しばらくして面倒臭そうな足音と共に現れたのは、主人と同じ金髪の青年だった。

「何なんだよ、煩い」
「ディオ様があなた様の側近として彼女をお雇いになられたのです」

目線がかち合う。兄貴と容姿は似ていても、どうも雰囲気は違っているみたいだ。俺は姉ちゃんに教わった通り、しっかりと自己紹介した。

「ジョセフ・ジョースター、です。…えっと、お世話に、なります。」

青年は片眉を上げて凝視した後、


――鼻で笑いやがった。

「ハッ、こんな品の無い女を世話係にってか?新手のジョークかい。俺はゴメンだし、後は勝手にしてくれていい。俺はこれからデートの約束があるんでね」

馬鹿にするかの様に肩を竦め、俺の横を通り過ぎていく。品のない女。ああ、確かに生まれは貧民街でロクな生活なんか出来なかったが、自分の魂すら汚された気がして屈辱だった。

「いけ好かねえ」

青年は立ち止まって、こちらを見やる。拳を振り上げたのは同時だった。ごめん姉ちゃん、もう再度路頭に迷おうが関係ない。一発こいつを殴らねえと俺の気がすまないんだ。しかし無情にも拳は空を切り、気付けば腕は野郎の手の中に納まっていた。

「こんな小枝みたいな腕で、俺を殴ろうとしたのか」

まるで嘲笑うかの様な口調。腕はびくともせず、俺は睨み続ける事しかできない。おまけに涙まで浮かべる始末だ。ああ、なんて恰好悪いんだろう。くそ、くそ…。

「おい。分かった、分かったから。…俺が悪かった。だから泣くなよ」
「、うう、っ、何がわがる。…お前なんがに、ぐひっ、お前なんがにぃぃ……ッ」

男が腕を解放した途端力が抜け、地面にへたり込んだ。




「ったく、やっぱ女の涙には弱いぜ」

男はがしがしと乱暴に頭を掻く。俺は鼻水を盛大に啜って見上げた。

「さっきは悪かったよ。


俺はシーザー。…別に、呼び捨てで構わないから」


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