抱かれて聞くは(三日月/刀剣)
蓄音機と三日月と審神者♂が出てきます
いちみか要素あります
一枚のレコードと蓄音機。それらは本丸に迎え入れてから初めて、三日月に贈ったものである。
蓄音機とレコード自体が、俺の時代では希少価値のある小道具(アンティーク)だ。たまたま現世から持ち込み、本丸の自室のすみに置いてあったもの。日中手入れに追われ、やっとコーヒーブレイクといった感じで蓄音機からレコードを流していたところを、そこへ通りかかった三日月が耳を欹てていた。俺はその時レコードの音に夢中で、気付いていない。
翌々日になり、戦に出向いた刀剣たちが傷を負うことなく無事戻ってきたので、俺は胸を撫で下す。ところが、殆どの者が寝静まったと思っていた夜更けの頃、三日月がこっそり俺の部屋に訪れたのだ。
「ずっと誰かが歌っていたのかと思っていた」
ホーンに触れながら三日月は首を傾げている。蓄音機について説明してやれば、納得したように頷いて「このような便利なものがあるのか」と言った。まあ、無理もない。
「主、あれをまたきかせてくれ」
「あれ?あれって、どれ…?」
「ううむ」
"みずのそしゅうの はなちる はるを"
突然歌い出した三日月に、俺は思わず目が点になる。音程やリズムのとり方が寸分も違わず、よく聞いていたんだなあと感心してしまった。
彼曰く、「これを聞いていると、心が休まる」らしい。
俺は後日、PCを開き政府のデータベースにアクセスし、三日月の歩んだ歴史について調べていた。彼にとっては遥か未来の曲だけど、人も刀も同様に「何か」に縋りたいのかなと思えばなかなか感慨深い。
「蘇州夜曲」と書かれたあのレコードは、蓄音機ごと三日月に贈ってあげた。彼はたいそう喜んでいた。何もない日の晩に彼の部屋の前を通れば、微かにだが聞きなれたフレーズが聞こえてくる。
覗き見をするつもりはない。そんな事しなくたって、彼が幸せでいる姿は想像に容易い。
了