Blue Train(he♀/鋼)
「俺には何も言う資格は無いとお前は言ったな」
「はい」
「そんな事言って突き放してる割には、随分な力だよな」
「すみません」
「でも仕様が無いんです。あなたを愛してしまった以上」
「違う世界から来た人間だぜ?」
「ええ。時折、あなたの存在が幻覚なんじゃないかって思う時があった」
「俺も最初は幻、あるいは夢だと思ってたよ。でもお前とこうして抱き合う内に、夢なんかじゃないんだってしみじみ感じた」
「お前が血を吐くまで、はっきりと気付けなかったけど」
「…」
「今はとても辛いんだ」
「…ッ」
「僕だって!……僕だってまだやりたい事が山ほどあるんです」
「ああ」
「まだ試してないロケットの実験とか、書きたい論文だってある。それだけじゃない。
もっと話したかった、もっとこうして睦み合いたかった…あなたと」
「ああ」
「死ぬのは嫌だ」
「………」
「死にたくない……死ぬのが怖い。もうあなたに会えない。僕は……」
「アルフォンス。これだけは信じてくれ」
「?」
「俺はお前を愛してる、という事」
「…なら、エドワードさん」
「ん?」
「僕の最後のお願いです。"此処"に、僕が生きた証を残しても構いませんか?」
* * *
「姉さん、起きた?」
弟の声がして、靄がかかっていた意識が覚醒した。
「とりあえず大事には至ってなくて良かったよ」
「アル…?俺、一体」
「忘れたの姉さん、街中で倒れたんだよ?」
そうだ確かに、アルと街へ出た後の記憶が無い。痛む頭を抑えながらも、何とか俺は上体を起こした。
「それでね、お医者さんを呼んで診てもらったけど――
"おめでとうございます"だって」
「え?」
「だから姉さん、妊娠してるんだよ。こっちに恋人でもいるの?」
「あ………」
「これから色々大変になるなあ。ご挨拶しに行った方がいいかな?」
――"此処"に、僕が生きた証を残しても構いませんか?
縋る様に呟いた時の、あのアルフォンスの声が蘇る。俺が泣いてる今頃、奴は天国で笑っているだろうか。