ピノキオ(cj♀/jojo)
お人形ジョセフィーヌと職人ザーシー
衰退していた球体関節人形のブームが再び起こったのは70年代頃からである。
プラスチック等の安い素材が生まれたお蔭で人形は容易に大量生産できるようになった。中でもスーパードールシリーズが人気である。人間と変わらない実寸で作られた最高峰の球体関節人形。美しいビジュアルと完成度で人気を博している有名なシリーズだ。
「父さん、また仕入れたのかこれ」
「ああ、最近の主流だからよく売れるんだ。俺たち職人が作る人形なんざ、今の人は手が伸びんだろ」
「職人が作ってこそ意味があるんじゃないのか。…こんな判子を押したようなもの、俺は認めないよ」
「ごめんくださいな」
「!…いらっしゃいませ」
客が来店し、俺は慌てて笑顔を作り挨拶した。
客はブランドものをちらつかせた如何にもお嬢様な感じの女性だった。目当ては言わずもがなスーパードール。お嬢様はしばらく吟味し後、こう言った。
「この人形、いくらかしら」
指したのはジョセフィーヌだった。ジョセフィーヌとは、他の人形と区別する為につけられた名前、いわば型番のようなものである。客はカード決済で支払いを済ませると、付き人に運ばせながら店を去った。
「あれは確か不人気で生産中止になった型だな。良かったなあ、あの人形。お客さんに買ってもらえて」
それにしても、怪しい客だった。笑顔でいる父とは反対に俺は訝しんだ。
翌日、俺はゴミ捨て場で最悪な光景を目の当たりにする。
「嘘だろう」
昨日女性に売った筈の人形、ジョセフィーヌは丸裸の状態で廃棄されていた。製造番号を照らし合わせてもうちの店にあったものに違いなかった。ジョセフィーヌの体は所々塗装が剥げてしまっていて、髪も半分抜け落ちていた。無理に焼却処理しようとしたのだろう。何て惨い有様だ…。
今日は粗大ゴミの日ではなかった為、苦情が来る前に俺はそれを持ち帰る事にした。