人魚姫(cj♀/jojo)
※最後悲しいので注意
昔、深い海の底には人魚達が住む国が存在しました。そこにジョセフという人魚がいました。人魚の国を治める王の娘の一人です。
ジョセフは海の上にある世界に興味津々でした。しかし人魚の国では、海の上まで行く事は固く禁じられていました。どういう風に危険なのかジョセフは教えられ育ちましたが、それでも地上へと思いを馳せる日々は続いていました。
そしてとうとう彼女は掟を破り、いざ神秘的な海の上へと登って行きます。海面から顔を出すと、一隻の船が通りかかるのを目にします。
その船には金髪の見目麗しい青年の姿がありました。家来らしき人間たちが彼の事を「王子」と呼んでいたので、きっと地上の国の王子である事が伺えます。ジョセフは王子に一目惚れでした。
しかし突如、船は突然の荒波により転覆し人々は海へと投げ出されます。王子が溺れているのを見逃さなかったジョセフは急いで彼を岸まで運んで行きました。
海岸まで辿り着いた時、ジョセフは岩影に隠れ誰かが王子を助けに来てくれるのを待ちました。そこへ一人の少女が来て、倒れている王子を見つけた途端駆け寄っていきました。意識を戻した王子は、自分を助けたのは人魚のジョセフではなく、後に来た人間の少女だと勘違いしました。
ジョセフは海の国へ帰っても王子の事が忘れられずにいました。いつも海上から王子のいる宮殿を眺めていたジョセフは、ついに人間として生きる事を望むようになりました。
ジョセフは人間になる為、魔女のいる洞窟へ訪れました。魔女は言います、「もし王子が他の女性と結ばれれば、次の朝人魚の心臓は粉々になり海の泡になる」と。
それでも構わない、とジョセフは真剣でした。そして薬の代償として、ジョセフは自分の声を魔女に奪われてしまいました。彼女は魔女から貰った薬を飲むと、彼女の紫色の尾ひれは人間の足に変わりました。
海岸へ打ち上げられたジョセフを助けたのは、何とあの王子でした。
「君、どこから来たんだ?どうしてこんな所で倒れていたの?」
「………」
答えたくても、声を奪われてしまったジョセフは無言で見つめ返す事しかできません。
「口がきけないのか。えっと…俺はシーザー、一応此処の国の王子だ」
(……シーザーって言うのか。素敵な名前……)
王子は人間となったジョセフをそばに置いて妹のように可愛がりましたが、それに恋愛感情はなく日に日に彼女は焦りを覚えていきます。
ある日、王子はこう言いました。
「俺は決めたよ。スージーQと結婚する。誰の事かって、海に溺れた時に助けてくれた女の子さ。あの子が居なければ、俺は助からなかった」
(違うんだ。シーザーを助けたのはその子じゃない。俺なんだ!ああ、目の前にいるお前に伝えたいのに、声が出せない……)
別の少女と結婚を決意する王子に、彼女は絶望しました。
少女と王子の結婚式の後、ジョセフは魔女の言っていた事を思い出します。
"もし望みが叶わなくとも、朝日の最初の光が射してくる前に、王子の胸にナイフを突き刺せば元の人魚に戻れる"
時が迫ってくる中、ナイフを構えたジョセフは王子を殺そうとしましたが、動きを止めました。ジョセフは大粒の涙を一つ零して、持っていたナイフを窓の外へ放り投げます。ナイフは「ぽちゃん」と音を立て、海中へと沈んでいきました。
そしてジョセフは王子の声に振り向く事なく、青い海へと身を投げました。その体は忽ち海の泡となり溶けて無くなりましたとさ。おわり。