お菓子の妖精
ハロウィンな子N1D♀
子供×お菓子という謎めいたCPです。
ある時、お腹をすかせた一人の少年が歩いていました。少年は身寄りがなく、街へ下りては食べ物を恵んでもらっていました。優しい大人もいるけれど、訪れるたび追い払う冷たい人もいました。
けれど今日はハロウィンのお祭り。大勢の子供がお化けや魔女の姿に仮装したくさんの家を巡ります。みんな口々に「とりっくおあとりーと」と叫ぶと、大人は色とりどりのキャンディーやビスケットを見せるのです。少年は普段ではありえない位たくさんのお菓子を手に入れることができました。
少年は帰る前に、もう一軒立ち寄ろうと思い立ちました。赤レンガの小さな家があったので、扉を叩くと女性が顔を出しました。
「とりっく おあ とりーと!」
「なんだ坊や。お菓子が欲しいの?お入りなさい」
内心"やった!"と思いつつ、少年は招かれることとなりました。テーブルの上にはクッキーだけでなく、マカロン、ケーキ、キャンディーなど様々なお菓子が並んでおり、大の大人でも感嘆の声を上げてしまいそうなほどです。「今までのおうちよりすごい」と感想を述べると、女性は声を上げて笑いました。
「坊や、あたしは人間じゃあないのよ。お菓子の妖精なのさ」
「ようせい?おねえさん、おかしのようせいなの」
「そうさ。この身体だって砂糖でできている。ほら、試しにかじってみなよ」
女性は白い腕を少年の前に差し出しました。少年は躊躇いましたが、女性の言う通りにその腕を一口かじりました。甘い砂糖菓子のような触感が口の中に広がります。
「ほんとだ、とってもあまあい」
「だろう?」
女性は今度は自分の眼球を取り出してみせ、少年の口の中へ入れました。
「あめだまだ!」
「すごいだろ」
「おねえさんのかじったところ、もとにもどってる…」
「ああ。何度食べても元に戻るようになってるんだよ」
「でもこれより、一番食べて欲しい所があるんだ。それは心臓さ」
「心臓…?おいしいの、それ」
女性はティーカップに口をつけてから、頭を振りました。
「そこまでは分からない。けど、お勧めだよ」
「心臓たべちゃったら、しんじゃわない?」
「いいや。お菓子の妖精はこう見えて、意外とタフなんだぜ」
少年は面白がって、女性の手や足をかじっては、様々なお菓子の味を堪能しました。女性の体はぼろぼろになりましたが、すぐ元通りなるので問題はありません。女性は棚にあったナイフをとり自ら胸元を切り開くと、ジェリービンズが溢れ、その奥から赤い林檎が出て来ました。女性は林檎を取り出して、少年の目の前に差し出します。
「さあ、お上がり。」
少年は林檎に歯を立て、そのまま齧りました。しかし林檎特有の酸味はなく、食べたことのない味がしました。
「あれ、おねえさん。林檎の味がしないよ。何だか……」
「ふふ、そりゃそうだよ。だってそれは、
本物の心臓だもの。
――ああ。やっとこれで呪いが解ける。やっと、死ねる……。」
うっとりと呟いた時、女性の身体は砂のように崩れ、跡形もなく消えました。お菓子にあふれていたはずの家は廃屋へと姿を変え、少年はその中心で一人取り残されました。そう、まるで全てが幻であったかのように。
了
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はっぴーはろうぃん!