深き河
ルシアと疑似親子な2様♀
特殊パラレル
私は本当の親を知らない。島に捨てられていた、まだ赤ん坊だった私を拾ったのはダンテだった。
私以外誰もいない島にダンテは独りで来た。ダンテは人ではない。側にいるようになってから気付いた。私と同じ、悪魔の血が流れているのかも知れない。
人一人いない孤島で私たちは寄り添うみたいに、慎ましくも平穏に暮らしていた。
「ダンテは、会いたい人は居ないの」
「いない事はない」
「その人ってどんな人?」
「いい奴だったよ」
私はそれが恋人であるとすぐに分かった。
「何で一緒に来なかったの」
「そいつには、もう家族がいるからな」
何て情けない男なんだと思う。彼女は困ったように微笑んでいる。
「此処は寂しくはないよ」
「?」
「可愛いルシアがいる」
ダンテは私をすっぽり包むように抱き締めてくれた。私はダンテと、ダンテが与えてくれた名前さえあればいいのだから。
ダンテが病床に伏せてから一年経とうとしている。
島に薬はないから、日毎に衰弱していく彼女の姿を見るのは辛かった。
「私にとってのお母さんはあなただけよ……。
だから、死んじゃ駄目」
万策尽き、握る手はとても冷たい。ダンテはいつものように薄く笑っていたが、やがて事切れた。
後ろに立つ男に目もくれず、私は抜け殻となったダンテの手を握り続けていた。
「―――!」
何も知らずに、男はずかずかと私たちの領域へ踏み込んでいく。外を見れば人間の船が何隻も島を囲んでいた。人間は身勝手だ。追い出すかと思えば、唐突に私たちだけの世界を踏み荒らす。心の底から殺してやりたいと思う。ダンテを、私を裏切った人間たちを。
私はそっと懐からナイフを取り出した。