Future is wonderful

ND♀V特殊 R15



ダンテは名家の出身であったが、不運にも双子の妹として生を受けた。この地では双子は不吉の象徴であり、後に生まれた赤子は里子として出されるか、最悪殺される。ダンテは不幸中の幸いか前者の方であった。生まれたばかりだった彼女は、庶民の家に預けられすくすくと育った。しかし成長していくにつれ、最初は可愛がってくれていた里親との関係は希薄になった。

15になった年に里親の提案もあり彼女は生家に戻ってきた。屋敷の人間は子供として受け入れてくれず、奉公人としてならば許可すると言った。行き場などない事を知っていたダンテは了承した。

屋敷の主人はダンテの双子の兄バージルだった。暖かく迎える筈はなく、みずぼらしい姿の片割れを蔑むように眺めていた。ダンテは酷く落ち込んだが、生きていく為にやがて諦めるようになった。

下女として働く内、元々陽気な性格も手伝って屋敷の使用人たちと打ち解けるようになった。しばらくして、来客が自ら彼女に送迎を頼むようになった。少女期を過ぎた彼女は美しくなっていた。



送迎した時に来客から貰う金銭をダンテはこっそりとチェストに隠した。此処に来てからもうだいぶ経つ。ダンテはある程度金が貯まったら、ここを出て隣町に店を立てようと夢見ていた。

一方バージルは黒髪の麗人を妻に娶り、一子をもうけていた。かなり癖のある子供で、屋敷中を走り回っては使用人たちの手を煩わせた。やんちゃな子息の暴走を止められる使用人は唯一ダンテのみだった。

「あっ、ダンテだあ!」「ネロ様、お静かに。また抜け出されたのですか」「だっておべんきょうつまんないもん」

ダンテは子供好きな為、懐かれるのが嫌な訳ではなかった。だがバージルの実の息子だと思うと複雑だった。

ダンテは此処に来た時から、ずっとバージルに悩まされてきた。無理難題を押し付けられたり、自分だけ他の者より不当な扱いを受けるのは常だったからだ。10代の頃は仕打ちに見舞われるたび隠れて泣いていたが、20代半ばを超えた今はそんな余力もない。


夜になり、ダンテはいつもの様にチェストを開いた。前に、隣町で立地や金額的にもちょうど良さげな物件を見つけている。彼女は期待に胸を膨らませた。





ある日、ダンテは手に大怪我を負った。虫の居所が悪かった夫人の元に紅茶を持って来たのが悪かった。

夫人はダンテが夫と実の双子であることを知っていたが、普段は特に何もして来たりしない人間だった筈だ。しかし最近はバージルとの仲が険悪だったらしく、夫人はバージルの容姿に近いダンテに八つ当たった。

突き飛ばし、地に伏せたダンテの手をヒールの先端が貫通した。ダンテは絶叫に近い悲鳴を上げた。夫に手は出せないが、下女相手にならば何をしても許されると考えていた夫人は、顔色一つ変えず部屋を出ていった。


新入りが手の包帯について心配していたが、ダンテは何でもないと一言いい持ち場に戻った。そういえば使用人仲間のパティが、結婚するからぜひパーティに出席して欲しいと言われた事を思い出す。夫の姿も拝見したが、なかなかのハンサムだった。

ダンテは花嫁の時期を逃したとつくづく思った。たくさんの出来事が重なったせいで、結局生まれたこの家に自分の青春を一滴残らず捧げてしまった。あのチェストの中身を考え、そろそろ潮時だろうと彼女は思った。




私室に戻ると、勉学の為遠方にいた筈のネロが立っており唖然とした。

ネロは以前よりすっかり精悍な姿で、双子の兄と同じ鋭い眼光を湛えダンテを見つめた。憎悪の念がひしひしと伝わり、ダンテは硬直した。しかし手帳を手にしているのを見て、正気に戻ったダンテはネロからそれを奪い取った。

「あんた、ここを出て行くつもりなのか」
「…」
「ありがとうよ、日記で散々罵ってくれて。折角あんたを迎えに来たってのに、興ざめどころじゃないぜ!」

椅子を力強く蹴られ、ダンテは恐怖に慄く。何も答えられない。ネロに胸倉を掴まれ、そのまま彼女はベッドに押し倒された。首に手を掛けられ、息ができない。じたばたと足掻きながら、ダンテはネロの目を見て確信した。


"彼の目はさながら獲物を捕食する動物のようにぎらついている。

私を確実に殺すつもりだ"








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