ハエレシス

N♀3Dでぱられる




魔剣教団から久し振りに依頼がきた。「この女を見つけろ。見つけ次第殺せ」と言われ渡されたのは女性の写真。話によると女性は悪魔が化けたもので何人もの人が襲われ殺されたらしい。要するに排除しろという訳だ。いつもの汚れ仕事だな、と鼻で笑い、女性がいるとされる山奥まで訪れた。



一軒の家が建っているのを見つけ敷地に入る。標的はごく普通にいた。人間と変わりのない姿で畑の中にいる。茂みの中にたくさんの葡萄が実をつけていた。

「何かご用でしょうか」

女は朗らかに笑ってこちらを見た。

「旅行者です。道に迷ってしまって」
「それは大変…。もうすぐ日が暮れてしまうし、私の家で良ければ泊まって下さい」







「観光なんて珍しい。ここは何もない場所ですもの」
「ここは秋になると紅葉が美しいから、見物に来たんだ」
「仰る通りね」

女はパンを切り分け差し出してきた。よく見たら何か生地に練り込んである。

「それは山葡萄です。とっても美味しいですよ」
「あの葡萄畑は、あなたが?」
「ええ。ここでジャムやワインを作っているんです」

女の目は人殺しとは思えない程澄み切っていた。

「ずっと一人でしたから、話し相手ができて嬉しい」
「ああ。俺で良ければいくらでも」
「町からお越しになったんでしょう。町の話を聞かせて貰えますか」
「喜んで」

…何かの間違いではないかと疑わせるくらいに。







「宜しければ、お名前を」
「…ダンテです」

「ダンテ。こんな事を言うのは可笑しいかも知れませんが、あなたを一目見た時から好きでした。どうか一晩だけでいい。…許してはくれませんか?」

ダンテは顔を真っ赤にして目を逸らす。これも演技の内なのだろうか。だったら恐ろしい悪魔だと俺は思う。万が一の時にも備えブルーローズは隠し持っている。

「わ、私、なんかでよければ…どうぞ。お好きになさって」










2日間様子を見てはみたが、女が正体を現すような素振りもなかった。ダンテは甲斐甲斐しく旅行者の俺の世話をしている。牙をむくタイミングはいつなのかも見当がつかない。


「ネロ。あなたはいつか帰ってしまうのでしょう」

深夜、ベッドの上でダンテは吐息交じりに呟いた。

「…そうだな」
「分かった。これから言う事は独り言だと思って聞き流してよ」







「何処にも行かないで。ずっと此処にいて…。」

ダンテは涙を堪えるような声で、そう告げた。

「どうせならあなたと一緒に行きたいけれど、私は山から降りられない。町へ下りたら私は人間扱いされないから。もうあんな辛い思いはしたくない……」




「ダンテ。あんたは…」
「私、人間じゃないの。人と違うから、たくさんの人に虐げられてきた。ある日、本当に殺されそうになった時があった。私は身を守る為に、彼らの命を奪ってしまったの」
「………」
「だから、もうあの世界では生きられない。誰もいないこの場所でずっと一人ぼっち……。でもあなたが此処に来てくれた。あなたが迷い込んできてくれたおかげで、今はとっても幸せなのよ」







"ネロ、ありがとう!"


そう言いかけた所で、銃声と共に目の前が赤に染まった。ダンテの額は衝撃で拉げ、何が何だかよく分からなくなっていた。

扉が壊され、教団の奴らが屋内に侵入して来る。俺は茫然としてその様子を眺めるしかなかった。

「こいつか」
「写真の通り不気味な女だ。悪魔で間違いないだろう」
「ネロ、でかした。隙を作ってくれたお蔭で、一撃で済んだからな」

脳漿を垂れ流すダンテは、笑みを携えたまま死んでいた。




どうせ彼女は死ぬ運命だった。どうせ殺される運命なら、俺が殺してやれば良かった。抜殻となった彼女が引きずられる様を眺めながら、俺はそう思った。





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