また会いましょう
VD♀ 特殊
続かずお蔵入りになった文です
「バージル気をつけて、日が暮れる前には戻ってきなさいね」
少年は母の言葉に頷き、屋敷の門から出た。
バージルは父を亡くしており、母と二人で生活していた。顔は覚えていないが、大層な人物であった父を誇りに思っていた。
活動的なバージルは久しぶりに沢までおりようと考えた。落ちていた枝と糸を拾い釣竿を作ると、魚釣りに興じようとしたが、途中で道が分からなくなったバージルは途方にくれる。
どうしよう。
歩けども足を踏み入れたことのない木々や草花が続くばかりだ。整備された道から外れたらしい。やがて空気も濁り始め、バージルは恐怖で動けなくなった。
学校の友人が言っていた事を思い出す。この森のどこかに、魔女が住んでいる。その魔女は子供をさらって食べてしまうのだと。
バージルは逃げるように逆方向へと走った。しかし知っている道には辿り着けず、途中で古ぼけた小屋が見えてきた。
小屋は大量の蔦で覆われており、不気味な雰囲気を醸し出していた。覚悟を決めたバージルは小屋の扉を開ける。
小屋には誰もおらず、生活しているような形跡もない。バージルはただの廃屋だと思い、日も暮れた為ここで朝を迎えようと考えた。疲労していたバージルは埃のあるベッドの上へ横になると、そのまま眠りこけてしまった。
しばらくして、人の気配を察知し目が覚めた。それと同時に、食べ物の匂いに気付いた。
バージルは起き上がり、存在者に目を向けた。真っ黒いローブを被った妙齢の女性だった。姿は御伽噺に出てくる魔女そのもので、バージルは忽ち震えあがった。
「あなたは魔女?僕を食べるの?」
魔女と呼ばれた女性は何も言わず暖めている鍋から器によそっい、バージルに差し出した。器には温かいスープが入っていた。
女性は毒は入っていないとでも言うように、自分の器に口をつけてみせる。バージルはおずおずとスープに口をつけた。それは母の作る料理と負けない位美味だった。
「しっかりお食べ。でないと死んでしまう」
女性はパンを差し出し、バージルは好意に甘んじた。バージルは彼女はベッドに倒れていた自分を介抱してくれたのだと察した。
「魔女って言ってごめんなさい」
「魔女なんてただの空想。熊の方がよっぽど怖い、違うか?」
「…そうだね」
バージルは頷いた。
「ねぇ、あなたの名前を聞いてもいい?」
「名前なんてない」
「顔は見せてくれないの」
「やめときなよ。見たらびっくりして気を失うよ」
「魔女じゃあないんでしょう。
僕はもう怯えたりしない」
女はしばらく間を置き、渋々フードを外した。
女の顔は半分爛れており、それは醜いものだった。
「この顔を見た人間はみんな化け物と呼ぶ。だからずっと山の中で暮らしてきた」
「…」
「それ以外は何もできないただの女だ。もう、早く寝なさい。この事は誰にも言わないように」