I hope it will get better.

4N♀D 死ねたです



俺は許されない事をした。けれど、何故かこうして幸せに生きている。代わりに犠牲になったのは、聖母みたいな美しい人だった。



あの騒動以降、俺はスパーダの再来と言われ英雄扱いを受けた。この騒動が収束したのはあの人の力も大きかった筈だ。あの人は「仕事は終わった」とあっさりとした様子で、フォルトゥナの地を去って行った。その頃の俺は、それがたまらなく悔しくて仕方なかったのだ。

都市が復興した後、俺は例の事務所まであの人を追いかけた。扉を開ければ、その向こうにあの人はいた。驚いた風もなく、彼女はにやりと笑って言った。

「やあ坊や。何かお困りでも?」



最初は渋っていたんだが、子供相手には弱かったんだろうな。俺は事務所に居候する許可をもらった。怠惰な主だったが、この人の下についてやる悪魔狩りは何とも新鮮で、刺激があった。今まで見た事もない悪魔をたくさん相手にした。一級の悪魔狩人である彼女は知恵がよく働き、悪魔に対する洞察眼は見事なものだった。

それから、スラムでの遊び方も覚えたんだっけな。賭博とか、酒や煙草の味も。スラムに住む人達はみな陽気で良い奴らばかりだった。悪い奴らは殆ど、あの人が全部追い払っちまったとか誰かが言っていた。



――そしてある晩、俺は遂に過ちを犯した。

原因は、酒に酔った勢いで。たったそれだけ。あの人はけろりとした表情で俺を見ていたけど。

「…ごめん」
「何で謝るの?」
「俺、あんたに最低な事、した」
「アハハ!たかだか一回で、何をそんな。」

彼女は笑っている。俺は笑えなかった。婚約者がいる身の上で、こんな事しちまったんだから。此処がフォルトゥナだったら周囲から石を投げられて当然だった。

「だってお前、まだ若いだろ。勢いでやっちまうなんてよくある話さ」
「でも」
「言いたい事は分かるぜ。向こうの法律的に厳しいんでしょう?――安心しなって、お前は何一つ汚れちゃいない」


"アンタは、どうなんだよ"

俺は言いかけた言葉を飲み込む。彼女はきっと慣れている、だから冷静なんだろう。「平気」だなんて言うから。「気にするな」なんて言うから。安心しちまったんだろうな、俺。

「とっとと忘れて、嬢ちゃんをめ一杯幸せにしてやりな」




 + + +




「見てネロ。赤い薔薇よ、何て綺麗なのかしら!」

I hope everything will work out all right.
「幸運を祈る」

そう書かれたカードがブーケの中に添えられていた。隣に立つキリエが「きっとあの人からよ!」と喜んでいる。

「幸運、か」
「薔薇の花言葉よ。どうせなら、式にも来てくれたら良かったのに…」
「あの人はそんな事する様なタチじゃないさ」

俺は未だにあの件で、罪悪感を抱き続けていた。そんな事露知らず、キリエは俺の腕に寄り添ってくる。キリエは薔薇の匂いをすんと嗅いで、幸せそうに目を伏せていた。

「ネロ、愛してるわ」
「ああ。俺も、愛しているよ」

本心からそう思っているつもりだ。けれどこの花を見ると、あの日を思い出す。あの人の香りを思い出してしまう。




――十年経った今でも、俺は心の何処かでダンテの影を追っていた。

俺はフォルトゥナを訪れていたダンテと遭遇した。今のダンテはあの頃に比べすっかり痩せ、静穏な雰囲気を醸し出していた。人間は年をとるごとに劣化していくのが当たり前だが、この人は普通の人間とは異なる生き物だ。出会った頃の彼女は、野性味があって好戦的で、まるで無邪気な赤子の様だった。例えるなら、蛹だ。今目の前にいるのは、蛹から羽化した蝶という所か――つまり、それ程までに美しかった。

「声位かけてくれたっていいだろ」
「悪かった。少し調べたい事があって、今日中には此処を発つ」
「今日中に?何か急ぎの用でもあるのか」
「依頼が入ったんでな」
「依頼ね…。そんな痩せぎすの体で大丈夫かよ、あんた」

皮肉のつもりだった。ダンテに対するちょっとした癖だ。ダンテはそんな言葉にも慣れた感じで苦笑した。

「お前も立派にやってくれてる様だし、そろそろ隠居してもいい頃合いか」

それでも笑い方は昔と変わってなくて、俺は少し安堵した。





それから1ヶ月後、ダンテは死んだ。

噂を聞き、俺は情報をかき集めダンテが最後にいたと思われる場所を突き止めた。古城のような場所で、その地下室の中にガラクタとなったリベリオンと二丁拳銃があった。夥しい血痕と、所々散らばった彼女のものらしき毛髪もあった。

伝説と謳われた女が死んだのだ。相手は相当強かったという事だけは分かる。死体すら残さない位、徹底的に破壊し尽くされたのだろう。

ダンテは最期、何を思って死んでいったのだろうか。スラムの仲間とか、死んだ家族の事だろうか。その中にも、俺の姿はあっただろうか。



なあダンテ、本当は恨んでいたんだろう。辛かったろう。本当は許されなかったんだ、あんな事。俺はあんたに甘えきっていた。

微かに覚えてるよ、行為の最中、何度もあんたに「愛してる」って囁いてた事を。あんたがその言葉を聞いて、嬉しそうに微笑んでたのも。自分は選ばれないって分かってても、あんたは俺を受け入れてくれた。だから夢中になって腰を振ったよ。

きっと俺は、あんたの事が好きだったんだ。





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