Dame De Lotus
1+2+3(all♀)
特殊/死ネタ有 R18です
昔、3人の女性が山中にある貧しい家で暮らしていた。3人は血の繋がった姉妹で、花売りをしながら生計を立てていた。
一番の末っ子である若はある日川で洗濯物を洗っていると、ちょうど近くに自分と同年代位の娘達が歩いているのを見かけた。貴族の出であろうか、娘たちは美しいドレスを纏い日傘をさしながら談笑していた。あの娘達に比べ、自分は何てみずぼらしいのだと若は眉根を寄せて俯いた。
彼女が帰宅した頃、家には長女である2様が炊事をしていた。次女の初代は花を売りに街へ降りている様だ。どこか元気のない末っ子に、2様は心配して声をかける。
「どうした」
若は口を尖らせ黙っていたが、やがてぽつりと一言。
「俺も…街の人達みたいに、おしゃれなドレスを着たい…」
末っ子の願いに、2様は内心困った。食べ物を買う金ですらやっとの家が、そんな代物を買う余裕などある訳がない。所々ほつれたスカートの裾を握る若に、2様はどう言ってやればいいか分からない。
だが若は、そういうものが気になっても仕方がない年頃である。だがどうにもならないものは仕様がない。2様は若を諭すように優しく告げた。
「…気持ちは分かるが、うちは貧しいんだ。分かるな?」
「うん…分かってるよ」
「今は我慢しよう、」
2様は少し笑んで、若の頭を撫でてやった。
初代が戻り皆で食事をとった後、ベッドに座り2様は考えた。若の寂しそうな顔が脳裏に焼き付いている。普段は貧乏である事など気にしない明るい性格の若も、誰にも見えない所で溜め込んでいたのだ。
私たちは花を売る以外に稼ぐ知識がない。どうすればいいのだろうか。
2様は一つの答えに行き着いた。まだ3人が幼かった頃、病床にいた母親が「それだけは絶対にやるな」と言っていた事だ。
翌日。2様は色とりどりの花をカゴの中へ入れ、支度していた。
「今日は日曜日だから、人がいっぱいいるね」
「そうだな」
「気をつけて行って来いよ、2様」
「ああ」
土日は街中が活気に溢れる為、花も売れやすいのだ。昨日の顔がまるで嘘だった様ににこにことしている若に安堵しながらも、2様は街へ下りに家を出た。
街は平日より賑やかで、人の往来が激しかった。無論、その中に2様もあった。
「こんな所で花売りか」
「不憫だねえ」
いつもならば無視している貴族の嘲笑や侮蔑を、2様は聞き逃さなかった。彼女は成り上がりの連中の一人の袖を掴み引き留めた。
「何だよ文句か?」
「触るなよ。汚えのが移るだろうが」
「花、買って下さいませんか」
被っていた日よけ帽子を外した途端に、男達の頬が僅かに染まった。
+ + +
夕方になり、2様が家に戻ると若と初代が出迎えた。
「今日はよく売れたよ」
「ほんと?やった」
「お疲れさん、晩飯できてるぜ」
3人でテーブルに座ると、いつもの様に食事をとった。
初代と若が寝静まった後、2様はトイレで嘔吐していた。まだ自分の中にあの男達が残っている感覚がして、体中が寒かった。それでも2様の頭に止めるという選択肢は無い。一度だけでも、愛しい若の願いを実現させてやりたいという姉の思いからだった。
(大丈夫、少しの間だけだ…)
次の日は40代程の紳士、その次の日は遊びに味をしめた若い貴族の男。ただ欲求不満を解消しに来ただけの男達ばかりを相手に、2様は花を売り続けた。
男達は彼女を裏路地に連れ込むと奉仕を要求し、一頻り体を弄んだ後に金銭を投げつけ去っていく。乱された衣服を整えながら、2様は若の喜ぶ顔を想像して精神的な辛さをしのいだ。
秘密を初代に知られたのは、売春を初めて二週間経った頃だ。彼女が部屋で着替えている所を初代が入って来て、上半身に残っていた鬱血を見られてしまったのだ。
「2様、あんた…もしかして…」
顔面蒼白の初代は2様の肩を掴み問い詰める。誤魔化せないと判断した2様は顔を背け、静かに白状した。
この先、暮らしが楽になるなど有り得ない。だからせめて、一度位は末っ子の願いを叶えてあげたい。そう言う2様に、初代は何も答えられなかった。妹思いであるのは初代も同様だった。声を振り絞りながら、初代は告げた。
「分かったよ。でも、あんたばかり辛い思いなんてさせられるか。俺も一緒に協力するよ」
こうして二人は若に知られない様に、街で売春を続けた。客寄せの巧みな初代は慣れるのにそう時間はかからなかった。「何、連中にちょっとした手助けをしてやるだけの事さ」と言って、2様を励ましてやった。
「"姉妹どんぶり"とか俺、初めてだ。なかなか最高だな」
「いいね。次終わったら、お姉ちゃんの方と交換しろよ?」
今日の相手は、脂ぎった中年の男の二人組だった。白玉の様に豊満な乳房を揺らし喘ぐ2様の隣で、初代も褐色の肌を晒し揺さぶられていた。――大丈夫、少しの間だけ我慢すればいいだけだ。二人は同じ思いを浮かべ、同時に達した。
どんなに貧しくとも、身を売るという行為だけはするな。昔母が言っていた言葉である。
今の行為がどんなに最低であろうとも、何も知らない若が「お帰り」と言ってくれるだけで、二人は救われた様な気分だった。
+ + +
その日は晴れず、雲行きが何処か怪しかった。二人はいつもの様に街へ下り、花を売っている最中だった。そんな二人の前に一人の男が立ち止まった。
目元の優しげな中年の紳士が、帽子を片手にこう言った。
「この花全て買い取りますから、少しお茶でもしませんか?」
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洗濯当番の若がよく利用する川がある。その上流がある崖の上で男二人が大きな布袋を担ぎ立っていた。同時に袋を崖から落とすと、数秒置いてばしゃりと大きな水音が響く。
沈んでいく布袋の表面から、赤い液体が漏れだしていた。
夕方になり、未だ家に戻らない二人の姉に若は心配した様子で窓を眺める。最近はよく二人で花を売りに行く事が多い為、きっと疲れているに違いない。帰って来たら笑顔で迎えてやらなければ、と若は思っていた。
夕飯はとうに出来ている、後は「お帰り」と言うだけだ。早く二人の安堵した顔が見たい。遠くから草を踏む足音が聞こえ、若はすぐ様立ち上がる。
二人が帰って来たのだと確信した若は、玄関まで小走りで向かうと扉を開けた。