トウパス
VD♀ パラレル
3→1へと時系列変わります
「ここ一帯は廃屋が多いよ。戦前ブルジョワが住んでた別荘か何かだろうけど、もう引き払われてからは誰も寄り付かないんだ」
荷馬車の主人は言った。言葉を向けているのは、後ろの荷台に乗る若い女だった。
「あんた都会からか?ここで生活するのは少々危険じゃないか。夜は狼が出るぞ」
「大丈夫、狼くらい何とかなる」
女は何食わぬ顔で拳銃を取り出した。かなりの訳有りだと主人は縮こまった。
「結婚することになった」
突然実の兄にそう告げられ、ダンテは整理しきれず椅子から立った。
「何だよいきなり。」
「子供(ガキ)ができたんだ。女も煩くてな。
もう会うのはよそう。……お前ももうそろそろ、落ち着くべきだ」
ダンテは元々キャバレーのダンサーだったが、今は官僚を相手にする高級娼婦であり、それなりに名が知れている。
「散々利用しといて、都合が悪けりゃ引っ込めってか」
「お前の為だと言ってるんだ。いつまでも同じ商売ができるのか」
「あいにく、あんたの結婚相手とは話が違う」
下腹に手を当てて睨む妹に、兄のバージルは思わず目を逸らした。
「もういいよ。潮時だと思ってたし、若い娘に引き継いでもらえばいいしな」
「………」
「もうあんたとは会わないよ。二度と。それで満足だろ」
泥だらけの手を見つめていた筈の目が、ふと遠くの景色を見た。取り囲む山は紅葉の色に染まり美しかった。自分がかつていた都会の町は遥か向こうの先にある。目に痛い位煌びやかだったあの世界が嘘のように思え、ダンテの口元は緩んだ。
"何だかんだで、もう五年も経つのか。"
最初は上手くいかなかった畑も今では立派に作物が実り、裾の住人と小さな祭を催したり作物を交換したりするようになった。鍬を持つ為、両手には大きなたこができ、どの娼婦にも負けない程白かった肌はすっかり日に焼けたが、全く気にならなかった。ダンテは今の生活をとても気に入っていたからだ。
黒い高級車が家の前で止まったのを見て、ダンテは眉をひそめた。下りて来た人物の顔を見た瞬間、持っていた鍬を落とした。
「ダンテ」
兄との再会に、声を発することすらままならない。
「随分と探した。帰るぞ」
「……どうして…」
「これからは二人で暮らす」
恐らく、裾の住人が彼女の居所を伝えたのだろう。後から出てきた従者が逃げられないようダンテの両腕を固定する。
「………」
今まで築き上げてきた景色が遠のいていく。ダンテの瞳から涙が一つ零れ落ちた。
了